初恋
矢崎嵯峨の舎
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)頭《かしら》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)梅干|老爺《おやじ》
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ああ思い出せばもウ五十年の昔となッた。見なさる通り今こそ頭《かしら》に雪を戴《いただ》き、額にこのような波を寄せ、貌《かお》の光沢《つや》も失《う》せ、肉も落ち、力も抜け、声もしわがれた梅干|老爺《おやじ》であるが,これでも一度は若い時もあッたので、人生行路の蹈始《ふみはじ》め若盛りの時分にはいろいろ面白いこともあッたので,その中で初めて慕わしいと思う人の出来たのは、そうさ、ちょうど十四の春であッたが、あれが多分初恋とでもいうのであろうか、まアそのことを話すとしよう。
ちょうど時は四月の半ば,ある夜母が自分と姉に向ッて言うには,今度|清水《しみず》の叔父様《おじさま》がお雪さんを連れて宅《うち》へ泊りにいらッしゃるが,お雪さんは江戸育ちで、ここらあたりの田舎者《いなかもの》とは違い、起居《たちい》もしとやかで、挨拶《あいさつ》も沈着《おちつ》いた様子のよい子だから、そなたたちも無作法なことをして不束者《ふ
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