の一切の得失が我々にとって何でありましょう。世の一切の美、一切の醜、一切の善、一切の悪、それが何でありましょう。……無職業、無一物、そして宿なし、まことに勇気ある者のみの営み得る最も勇敢なる生活だ。そこにのみ誠に清新なる生活が味わわれるのだ。……何を恐れ、何を憂えんやだ。いかなる苦悩も、いかなる困窮も、やがて次ぎの時間に我々から「経過」して消えて行ってしまう、そしていつも我々の生命と、我々の思想と、我々の身体とが残って存在しているのだ。これでたくさんだ。……何という幸福でありましょう。……」
こんなことを叫び続けていた。そして最後に彼は曽根の肩に両手を掛けて、曽根にも一日も早く社をやめるように勧めた。
「……先輩、後輩、関係、背景、そして紹介状、……むこうに行ってはすべり、こっちへ来ては転《ころ》び、……曰《いわ》く何系、曰く何団体、曰く何派、曰く何、……まるで簇生《そうせい》植物のようだ。うじょうじょとかたまっていなければ生きて行かれないような、そんな意気地のない権威のない生活が何になるのだ。……そういう世界から一日も早く卒業しなければだめだ」
それはまるで人を鞭打《むちう》つよ
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