てんで」に傍点]気がつかずにいたものらしく、道が曲っているのを真直《まっす》ぐに歩るいて来て、大手を振りながら落っこちてしまった。……
それから一人の警官は、わざわざ彼を窓のところまで引張って来て、下の方を指差しながら
「それ、その川だ。岸の石垣《いしがき》の高さがあれでも一丈もあるだろうよ、……梯子《はしご》を下すやら、それは騒いだよ。君の帽子がぷんぷらぷんぷら流れてゆくのを見て、それを君だなんて言うものがあったりして、その辺に君の姿がしばらくの間見えなくなってしまったんだからね。……でも、まあ、君の運がまだ尽きなかったのだね。……何しろ素敵に酔っていたんだから」
こんなことを言った。
曽根はそれらの話を一語も聞き洩《も》らすまいと熱心に聞いた。聞きながらもその場合場合の記憶を呼び起そうと一生懸命にあせっていた。しかし、覚えのない部分はあくまで覚えがなく朦朧《もうろう》としていた。それがまた彼を暗い憂鬱《ゆううつ》に陥らしめた。
下宿へ帰った時、玄関のあたりに主婦《おかみ》の姿が見えなかったので彼はほっと幽《かす》かな吐息をした。大急ぎで車屋に賃金を払い、車のけこみ[#「けこ
前へ
次へ
全42ページ中11ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
相馬 泰三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング