さしたつけよ。」と、今度は後の方で、誰か女の人が云つた。
「それに八十二だつて云や、年齢《とし》に不足はねえんだからの、まあ、目出度《めでて》え方なんだ。」
「ほんだてば。」
「八十二でゐさしたつて、え?」
「あ、さうだ、と。」
「ほう、それにしちや、まあ、とんだ岩畳《がんでふ》なもんだつたの! 仕事ぢや、何をやらしても若いもんと同じこんだつた。」
縛《いまし》めからでも解かれたやうに、一同は急にくつろいで、陽気に、がやがやとしやべり出した。「やれやれ!」といつたやうに大きな吐息を洩《もら》すものさへあつた。
風のない、ぽか/\する上天気である。収穫前の田畑はいづれも豊かに、黄に、褐色《かつしよく》に、飴色《あめいろ》に色付いてゐた。あたりには、赤とんぼの群がちら/\と飛んでゐた。その或るものは、歩いてゐる青竹に、朱傘に、柩にとまつたりした。
チン! カン! ボン!
「爺さんな、今ごろ、どの辺を歩いて居られることやら?」
突然、真中あたりで、こんなことを云ひ出したものがあつた。と、それが、ちやうど波紋かなどのやうに、順々に前後に拡つて行つた。
「三途《さんづ》の川《かは》あたり
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