続いた。
 チン! カン! ボン!
 念仏衆の打ちならす小、中、大の鉦《かね》の音が静かに、哀《かな》しげに、そして、いかにも退屈さうに響いた。行列は、それに調子を合せてでもゐるかのやうに、のろ/\と、哀しげに、そしていかにも怠儀《たいぎ》さうに進んだ。
 誰もが、唖《おし》ででもあるやうに、重苦しく押黙つてゐた。
 チン! カン! ボン!
 たゞ、鉦の音だけが、間をおいては同じ調子で繰り返へされた。が、小暗《をぐら》い村の小径《こみち》を離れて、広々とした耕野の道へ出た時、たうとう我慢がしきれなくなつたといつたやうに、誰かが、前の方で叫んだ。
「鉦を、もつとがつと[#「がつと」に傍点]に叩《たゞ》けや。」
 と、これも、みんなに寛《くつろ》ぎを勧めでもするやうな、殊更《ことさ》らにおどけた調子で、少し離れたところから、ほかの者が、それにつけ加へた。
「ほんとによ、今度の仏は、大分耳が遠かつたんだから。聞えねえと悪い。」
 チーン! カーン! ボーン!
「さうだ、さうだ。もつと、もつと。はゝゝゝ。」
「爺《ぢい》さんな、陰気ツ臭いのが何より嫌《きれ》えだつて、いつも口癖のやうに云つてゐ
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