、果てしもなく連なつてゐて、そしてそれが皆救ふ事の出来ない全くの絶望を以て、真赤に枯れてゐるではないか。それにしても何故《なぜ》こんなに醜く真赤に枯れたのであらう。あまりの事に我を忘れて立ちあがらうとすると、夢はさめた。全身心持悪るくびつしよりと冷汗をかいてゐる。暫《しば》らく気を失つた様になつて、只《たゞ》茫然《ばうぜん》としてゐたが、我にかへつて四囲を見渡せば、我が松林は今や夕日を受けて、その緑は常にもまして美しく眺められた。そして頬白は矢張、遠くへは去らずどこか近くの松の枝で囀つてゐる。
 ――夢だつたのだ。
 と強く心にも打ち消し、口に出しても云つた、が何故か胸のさわぎはいつまでも静まらなかつた。
 と、それから四五日して夜、又、夢に、…松風がごーつと悲しく吹き渡り、そしてそれから広い/\松原の醜く真赤に枯れた状《さま》がまざ/\と彼の目の前に現はれて来るのであつた。
 ――夢なのだ。
 彼は何かを強く追ひのける様にかう叫んだ。
 しかしこの夢はその後、幾度も/\彼の眠りに現はれて、執《しふ》ねくも彼を悩まし続けて行くのであつた。
[#地から2字上げ](大正元年九月作)




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