、――どんなふうに思っているのだろう。」また、こうも思った。
彼は再びそーっと池を廻り、小松の林をぬけて家の前の方へ出て来た。
「子が生れるのだ。あのお腹の中にいるのだ。それがおれの子だ。――あのお志保が母親で、この俺が父親なのだ。」
庸介は、今はっきり[#「はっきり」に傍点]と心の中で、こう云うのであった。静かに歩きまわった。いろいろの思いが限りなく湧いて来た。「生れて来る子供は男かしら、それとも女かしら、……女の子ならばどうぞお志保によく似てくれ。あれと同じように美しく可愛らしくあってくれ。もしまた、男であったら、……それにしても俺に似てはいけない。」
「否、否、そんな事はどっちだっていい。俺はどうだって構わない。」「ほんとを云えば俺は子供なんか少しも欲しくはないのだ!」「男には子供というものは要がないのだ。……俺は子はいらない。一生涯、何でそんなものが要《い》ろう。一人も要らない。……」こんな事を思っているうちに、彼の心は怪《あや》しく昂奮して来た。何もかも投げ出すような強い非情な心のすぐその裏に、きわめて涙もろい弱い気持ちがぴったり[#「ぴったり」に傍点]寄り添って拡がった
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