れを長く続けていられないんだもの。何か思おうとしてもちっとも甘《うま》く思う事ができやしない。こんな風だと、かえってだんだんわたしの頭が悪くなってゆくばかりだわ。……わたし、この上にまた、気でも狂うような事でもあったらどうしよう。それでなくてさえ、『あんな事』があった身だのに。……何という情ない事になったのだろう。」と云って、気をもんでは泣き出した。
 屋外には峻酷《しゅんこく》な冬が、日ごと夜ごと暴れ狂っていた。世界はすべて、いやが上にも降り積もる深雪の下に圧《お》しつぶされて死んだようになっていた。
 ある夜、その夜も屋外はひどい吹雪《ふぶき》であった。ちょうど真夜中とも思われる頃、房子が彼女の部屋の中で急にけたたましい声で、
「……早く、早く、誰か起きて下さい。……それ! そこへ逃げて行く。」こんな事を呼び出した。
 隣りの部屋に寝ていた両親は驚いて、寝巻のままで走って行った。房子は土のような顔色をして、闇の中に怪しげにぼんやり[#「ぼんやり」に傍点]立っていた。どうしたのかと聞いてみると、今、自分がふと[#「ふと」に傍点]目を覚ましてみると、自分の床の中に一人の男が入っていたの
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