」
こんな事を云い出したので、みんなすっかり、楽《ら》っくりして悦《よろ》こんだ。病人がしきりに事のおこりを聞きたがるままに、母がそのあらましを話してやった。房子は熱心にそれに聞き入っていたが、急に、酷《ひど》くふさぎ出した。それからやや長い間何か深く考えこんでいるようすであったが、急に、いかにも絶望的な声をあげて泣き出したのであった。誰一人としてその意味がわからなかった。いたずらにまごまご[#「まごまご」に傍点]して彼女の背中を擦《さす》ってやったりするほかになす術《すべ》も知らなかった。
幾日も房子の容態ははかばか[#「はかばか」に傍点]しくなかった。彼女は、誰が何と云っても黙りこんで重く欝《ふさ》いでばかりいた。時々いかにも堪え兼ねたと云ったように、わあ[#「わあ」に傍点]と急に泣き出したりするのであった。
房子は、自分の身体の所々に痛みがあるように覚えた。それは、みんな「あの時」のが残っているのだと思った。そう思うと一切がそんなふうに意做《おもいな》されて行った。どの追想もどの追想もすべて「それ」を証明するに十分であるように思われた。庸介は彼女をかくまで酷《ひど》く心痛さ
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