い事を云って悲鳴をあげた。静かな眠りは一時間と続くことがなかった。……身体は燃えるように熱かった。こんな事がちょうど三昼夜もつづいた。
めずらしく彼女は静かにすやすや[#「すやすや」に傍点]と眠っていた。そしてその後に目を開いた時に、初めて再び彼女は幻影の世界から帰って来た。
房子は、そこに附き添っていてくれた兄の顔を懐しげにじっと見入った。そしてあどけない羞《はじ》らいを帯びた微笑を口元に浮べて、
「兄さん!」と呼んだ。
庸介は、ほっと[#「ほっと」に傍点]安心した喜ばしい顔を妹の顔の上へつき出して、
「おや、房子、お目覚めなのかい?」と云った。そしてその額のところを軽く撫でてやった。
「何だか、……わたし大変だったわね。」と、晴やかに云って、それから「いったい、どうしたんでしたの?」と憂わしげに附け加えた。
それにもかかわらず、兄は、
「それよりも、お母さんをすぐに呼んで来てあげよう。ね、すぐに来るから。」こう云ってそこを走り出た。
父も、母も、一同が房子の枕元へ集って来た。房子が、やがて、
「もう、すっかり良いようよ。妾、大変にのどが乾いたから何か飲むものを少し頂戴な。
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