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[#ここで字下げ終わり]
 庸介は、自分の思いがいつからとはなしにお志保の方へ引き寄せられていたのを知っていた。それにしても、かほどまでに彼女の事が自分の心に深く喰い入っていようとは知らなかった。彼女に対してしようとしている自分のある企てが、かくまで執《しゅ》ねく自分を掻き乱し、悩ましていようとは思わなかった。

     十一

 裏門に近い所に一つの粗末な小屋があった。そこへ藁がたくさんに入れられてあった。それからその一部分がちょっと[#「ちょっと」に傍点]片附いていて、そこへ、一年中ついぞ使う事のないような雑具が納《しま》いこまれてあった。めった[#「めった」に傍点]に用もないので常には家の人達からまるで[#「まるで」に傍点]見捨てられているような所であった。入口が横に附いていて、そこへ出入りするに、その姿を他人から見られまいとする位の事はきわめて容易であった。それにその裏手が、梨《なし》だの桃だのの苗木が植えつけられてあり、なおそれに続いて荒れた雑木林があって、そこには食べられる小さな茸《きのこ》があったりした。そんな工合で、その辺から誰かがひょっこり[#「ひょっこり」
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