に傍点]出て来たからとて、それは少しも可怪《あや》しく思われるような事もないのであった。
 庸介は、ずーっと前から、そこに深く心を寄せていた。
 入口の戸がいつも半開きのままに打ち捨てられてあった。彼は時々ここへそーっと一人で忍び込んで行った。昼間でもその中は薄暮のような光しか無かった。頭の上へおっかぶさるように藁束が堆《うずたか》く積み重ねられてあった。すかすか[#「すかすか」に傍点]するような、それでいて馬鹿に甘ったるい乾藁の蒸《む》れる匂いがいつもむんむん[#「むんむん」に傍点]籠っていた。屋外の苗木林で、木の葉がそよ[#「そよ」に傍点]風のためにひらひら[#「ひらひら」に傍点]と裏返えしにされるのや、やがて枯れてからから[#「からから」に傍点]と散ってゆくさまやが、戸のすき間から覗かれた。
 彼は、小半時間もそこから出て来ないような事もあった。そして注意深くあたりのようすをうかがっていた。また、どうかすると、藁束に身を靠《もた》せかけたままいつか心持が重くなってついうとうと[#「うとうと」に傍点]転寝《うたたね》の夢に入るような事さえもあった。それにもかかわらず、これまでについ
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