って繰り返えされて行った。
やがて、彼の心が、幽《かす》かに、どこか底の方で叫び出した。
「俺は真に零《ゼロ》にも劣っている、俺は無にも値しないであろう。」
彼は泣きたくも泣き出されないような思いを抱きながら、黙然《もくねん》として山を下りて来た。
十
何か為《し》よう。みんなが何かしらしている。何にもしないでいるのは自分だけだ。自分も何事をか企てねばならぬ。何事をか初めねばならぬ。今日、すぐ今からでもそれに取掛らなければならぬ。そうしないではいられないような心持ちが続いた。
「しかし、その前に俺は俺自身が何であるかを知らねばならぬ。そして俺に何ができるかを知らねばならぬ。そしてその後に傍目《わきめ》もふらず突進しよう。」庸介はこう考えた。
「一生の仕事にとりかかるのだ! そんなに慌ててはいけない。前途を測るに当って、一通り過去を振り返ってみるのも強《あなが》ちに無益な業《わざ》ではないかも知れない。自分がこれまでに実際何をしたか、何をなし得たか、またどんな事の方へ主として傾いて行ったであろうかを明らかに思い起してみよう……そうだ。俺は今のこの静かな境遇を利用して自
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