だって本当に良い事かも知れないのだ。しかし、お前は生来弱い。何んでそんな労働などができようぞ。思いもよらぬ事だ。……ほかにまた方法もあろう。とにかくいったんこっちへ引上げたらどうだ。そして静かに前途を測《はか》るとしたらよかろう。」
こう云う意味の事を書き、それにその旅費にもと云って金弐拾円の為替券《かわせけん》を封じ込んでよこした。これは、田舎に多少の田地も持ち、その上にかなり立派な医院を開いて、やって[#「やって」に傍点]いる彼の父としてこれ位の心附きは何の不思議でもない事であった。とはいえ、その手紙を受取った時には、彼はしみじみ[#「しみじみ」に傍点]と有難く、その暖かい情に我れ知らず涙を流して泣いた。
彼は、自分自身に向って幾度となく云った。
「破廉恥《はれんち》な事をしたのではない。俺は何の罪を犯したと云うのではない。」
しかし、あまりに意気地がなさ過ぎると思った。また、一ツには自分のこうした帰郷が、平穏な両親の家へ一ツの暗い、醜い影を投げ付ける事になりやしないだろうかを憂えた。
親切を懼《おそ》れるのは善くない。――だが、なろうことなら、自分の悲惨を家の人達に際立っ
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