難のために父の補助を受けて、それから自活の途に入った。思わしい事もなかったにかかわらずとにかく押しも押されもしない一個の男として、大勢の他人に混《ま》じって独立して来た。しかるに、彼の思想がようやく根を生じ次第に生長してゆくにつれて、世間が追々狭くなってゆくのを彼自身に感じた。思わざる打撃が徐々に迫って来た。三度目の解雇の時、その雑誌社を出て家へ帰る電車の中で、「みんなが、どうも勘違いをしているのだ。」こう思った。彼は自分の友に向って、
「なあに、窮迫がどれほどひどくなったって、この俺を滅《ほろ》ぼせるものではない。俺は、泥まみれになったって俺の道を歩き続けるのだ。」こう語った。
しかし、世間の事はきわめて簡単で明瞭であった。下宿の払いが滞《とどこお》り滞りして、「もう、どうも。」と云う所まで来た時、持ち物をすべて取り上げられてそこを突き出されるのを彼は拒《こば》む訳にはゆかなかった。
「こうなっては、いよいよしかたがない、道普請《みちぶしん》の土方にでもなるほかに道はないだろう。」実際こう彼には思われたのであった。
郷里の父は、とうとう彼に手紙を与えた。
「身体でも丈夫なら、それ
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