て感じさせたくないと思うた。それにはできるだけ、強い感動を家の人達に与えないようにして家へ帰り着くことが必要である。驚かさないようにするのが何よりだと考えた。彼が特に夜を選んで帰って来たのは、こうしたわけからであった。ちょうど、八時頃にはいつもごたごたしていた一日中の事に一段落が付いて、家の者が茶の間へ集って茶でも飲みながら心静かに四方山《よもやま》の話をしているだろうと云う事を、彼は、自分もかつてよくそうした仲間の一人であったのでよく知っているのであった。

     三

 庸介はぐっすり寝込んで、翌朝九時過ぎになってようやく目を覚ました。と、妹の房子がさっそく部屋へやって来た。
「まあ、お早いんですね。」こう云って笑い出した。彼女はいかにもおかしさに堪えられないと云ったようにいつまでも笑い続けるのであった。彼も、ついそれに釣り込まれて、何という事もなく、
「は、は。」と声を出して笑った。
「この部屋はひどく日が当るんで、もう少しすると大変なんだわ、暑くて。それはとても寝てなんぞいられやしないのよ。」こう云ってまた、房子は笑った。
 庸介は朝の食事を一人でした。それがすむと、房子が
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