黍《きび》などが収穫されつつあった。畑の中に長々と両足を投げ出して一休みしている人々もあった。太い煙管《きせる》ですぱすぱ[#「すぱすぱ」に傍点]烟《けむり》をふいている人などもあった。そうかと思うと、二町ほども距《へだた》った所から、まるで風のような荒い声で、何か面白そうにその老爺に話しかけている者などもあった。空には赤とんぼの群がちらちら[#「ちらちら」に傍点]飛んでいた。農夫等の仕事は、彼にはいかにも楽しそうに見られた。そこには適度の暖かさを持った日光と、爽やかな清新な外気とがある。健康な肉体がその中で、その右、左、前、後へと、いとも安々と動いている。いかにも滑らかに。何の滞りもなく。――それは決して労働と呼ぶ事ができないように思われた。と云うよりは、むしろそれは慰みであり、一種の遊び事ででもあるかのようにさえ見做《みな》されたのである。
何事に煩《わずら》わされるという事もないだろう。むろんこの瞬間に何を憤り誰を怨《うら》み、また誰から怨まれるという事があり得よう。そして一日の仕事を終った時には、疲れてまったくの無心になって空腹を感じて家路を急ぐのである。それは夕餉《ゆうげ》
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