どもう終ろうとして平原の中へ岬のように突き出している小山脈の一峰で、高さは云うほどの事もなかった。それに頂上まで大幅の立派な道がついていた。松や杉の林に富んだ、美しい愛らしい小山であった。その麓には温泉場などもあり、この地方の農民が春や秋の休み日に、よく三々五々打連れて蕨《わらび》や栗を採りに登る山であった。
 彼はただ何という事もなしに、高い処から遠く眺めてみたいというような願から、ふと[#「ふと」に傍点]思いたったのであった。前の△△川を舟で渡って向う岸につくと、堤防に添うて一つの郡道へと出た。それはそこからかのG山の麓を目がけてそこへ一直線に導いてゆくような道であった。道の右、左には田や畑が限りもなく続いていた。穀物はすでに熟《みの》りきって、今にも刈り取られるのを待っているように見えた。田では早稲《わせ》は刈り終られ、今や中手の刈り入れで百姓は忙しそうに見えた。田の中で鎌の刃を白くきらきらと光らしている人、刈り取られた稲を乾すために畔《くろ》の並木に懸けている人、それを運ぶ人――年寄も、若者も、女も子供もみんな一生懸命になって、まるで駈け歩くようにして働いている。一方には大豆、
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