]光をあたりに投げていた。酔は気持ちよく醒めかけていた。彼はあたりを取片附けて改めて床の中へ入った。
と、つい先刻見た一つの夢が朧《おぼ》ろげに彼の頭に思い出されて来るのであった。
……はじめ、お志保がそこに坐っていた、何か自分に訴える事でもあるような、憂わしげな顔付をしていた。と、庸介の母がそこへやって来て、何か厳しく彼女を責め初めた。その調子は非常に熱してはいるが、ひどくあたりを憚《はばか》っているような所が認められた。母の口から時折彼の名前が呼ばれた……やがて、どうしたのか急にお志保はしくしくと泣き出した。と、それに続いて庸介の母も声を出して泣き伏した……
その朝は、庸介はいつもと同じ時刻に起き出で、いつもと同じように家の人達といっしょに朝の食事をした。
九
川原地に繁っている尾花に穂が出た。それを遠くから眺めると、秋の白い光を受けてそれが雲母《うんも》のように光った。銀色に、淡紅色に、薄紫色にいろいろになって波うった。
十月のある晴れた朝、庸介は、すぐ家の前に近く見えているG山へ登ろうと思って家を出た。二里とは離れていなかった。それは、国境の山々がちょう
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