傍点]笑った。それを見ると、庸介もおもわず同じようににっこり[#「にっこり」に傍点]とした。そして、
「十七だというが、年の割には大人だ。――いや、あれはまだ子供だ。おそらくは何にも知っていはしない。」こんな事を囁いた。
 目をつぶって、もう一度お志保の顔を求めた。が、どうしてもそれはもはや見られなかった。グラスを取り上げて一杯のみほして、びりびり[#「びりびり」に傍点]する唇をぷーっと吹いた。
「否、俺は遠からず上京するであろう。そしてそれっきり、再びこの土地へは帰って来ないかも知れない。そうだとも、俺は遠からずこの地を出発《た》とう。数週ののち、しからざれば数カ月の後、……そして今度こそは本当に勇敢に餓死と戦うのだ。……万物はみんなそうしているのだ。」かう云って、また盃を重ねて行った。……
 夜のしらしら[#「しらしら」に傍点]と明ける頃になって、ふと[#「ふと」に傍点]目を覚ました彼は蒲団ものべずに着物を着たままそこに酔いつぶれていた自分を見出した。ウイスキーの瓶が空になって転がっていた。机の上には、点《つ》けっぱなしにされていたランプが疲れ果てた、ぼやけた[#「ぼやけた」に傍点
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