慢ができないでしょう。しまいにはその退屈のために世界中が窒息して亡びて仕舞うかも知れません。……」
彼の言葉は、すぐにぽつり[#「ぽつり」に傍点]と切れてしまう。そしてそれに続かる言葉が、もういくら探しても、おそらくは全宇宙に一つもないように思われた。
「己《おの》れの自我が無いところに全実在が何でありましょう。」
「たった『一日』しか願わない人間があったとしましたら……。」
「そうです。二度と帰って来ない決心で進んで行くとします。――一ツの埒《らち》を破り、また他の埒を越え、こうして限りなく突撃し、拡大してゆくとします、そういう事をする性質をおのずから具《そな》えた者があったとしたらどうしましょう。封じる事を厳しくすればするほど、抑える事を重くすればするほど、いよいよ爆発するような事があったとしたら?」
「みんなといっしょに居る事に堪えないような人があったとしたら、そしてその人はみんなの中に混り込んでいればいるほど悲しく淋しくなって来て、どうしてもそれに堪え得られないとしましたら……。」
「崇《とうと》き憤り!」
「際涯なき自由!」
彼は、ついに、一つの句さえ満足に云えないように
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