て下さい。いゝえ。兄さんはきっとそれを知っていらっしゃいます。」
羞《はず》かしさのために顔を真赤にして、両の眼には涙さえ浮べながらやっと[#「やっと」に傍点]これだけを云う事ができた。しかし、彼女自身は自分が今、何を云ったのだかよくは解らなかった。庸介は今度は本当に妹の手に触れた。それを自分の両方の手の間へしっかり握りしめながら、少しの間を措《お》いた後、精一杯な爽快さを声に表わして、
「お前の云う事はみんな間違っている。ね、房子。今、お前の云ったような事は、それは、醜く生れついてそれでいつも退屈ばかりしている者の云う事だよ。……それだのに、お前のようにこんなに美しい可愛らしい人が、何でそんな事を云う事があろう。お前は、自分の美しい事ばかりを思うていればそれで良いのだ。一生涯。……それがお前のしなければならない一番善い事なのだ。……ね、房子。わかったかい。」
こう云って、彼は[#「彼は」は底本では「彼に」]妹の手に接吻を与えてやった。
房子には、自分がからかわれて[#「からかわれて」に傍点]いるように思えた、しかしそれがまた、何だか馬鹿に嬉しいようでもあった。そして兄のこの一言
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