花が大変に好きなんですのよ。」と、云った。
彼女は、先刻から、いつか一度は試してそれに対する兄の意見を訊《き》いてみようと思っていた例の自分の唯一の問題についてしきりに考えていたのであった。兄さんこそは本当に自分の心に納得《なっとく》できるような答をしてくれる人だと、ずーっと以前からそう思うていたのであった。兄さんは、何と云っても自分の知っているすべての中での一番立派な思想家なんだ、とは彼女の堅く信じている所であった。それに兄さんは誰よりも今の若い人達の心をよく知っている。そして事実、東京で若い多くの女のお友達もおありの事であったろうし……こんなふうにも思うているのであった。――いつか云い出そう、云い出そうと思いながら、いつも良い機会を見出せないでいたのを、今こそはもっとも良い時だと、先刻、最初に兄の顔をちら[#「ちら」に傍点]と見た時にすぐにそう思ったのであった。
幾度か口の中でためらった[#「ためらった」に傍点]揚句《あげく》、
「妾《わたし》ほど不用な人間は一人もありませんわ。……妾は自分が哀れで堪まりません。……妾は何をしたら一番善いのでしょうね。兄さん。どうぞ、それを教え
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