、その園の一隈にあるベンチの上へ並んで腰をおろした。
庸介は非常に爽やかな気持ちになって来た。それと同時に、妹の房子がこれまでになく可愛らしく感じられて来た。彼女は、その辺にある、まだ花を附けない二三の草花について説明をした。それから、どうしたのだか、そのベンチのすぐ側の所に植えられてある、咲き揃うているスウィート・ピーの花にじっと見入りながら黙り込んでしまった。兄は、妹のそのようすに気がつくと、「このような、可憐《いたいけ》な少女の心にも何かなやみ[#「なやみ」に傍点]と云ったようなものがあり得るものだろうか。」と思った。「もしも、実際にそんなものがあるのだとすれば俺の力で何とかそれを今すぐに除き去ってやりたいものだ。」心の中で静かにこう云った。しかし、彼は、そんな事は素振りにも見せずに、
「何て綺麗なんだろう。そして、まあ、何て可愛らしいんだろうね。この赤い花は!」
うぶ[#「うぶ」に傍点]毛の生えている妹の白い手を執《と》らぬばかりにして、こう云った。
こう云われて房子ははっ[#「はっ」に傍点]とした。そして懶《ものう》げに、とは云えいかにも懐かしげに、
「え。わたしはこの
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