びただ》しく繁殖する、果樹につく天狗虫《てんぐむし》、赤虫、綿虫や、それから薔薇や他の草花やの茎にとかくつきたがる油虫やの類《たぐい》を見つけ次第に一一除《と》り去ってやった。それは、良い果実を収穫し、良い花を咲かせたいという考よりもむしろ、それ等の木や草やを愍《いた》わり愛する情のためからであった。房子は、今、朝顔の鉢を幾つとなく持っていた。竹や葭《よし》を綺麗に組み合わせて小さな小屋形のものを作り、それに朝顔を一ぱいに絡《から》ませたりしてあるのも、その園内に持っていた。
ある日の暮れ方、房子が、襷《たすき》がけになってそれ等の草木に一生懸命になって水を与えているところへ、庸介がやって来た。彼は、仕事の済むまで妹の邪魔をしまいと思って、入口の所で黙って立っていた。すると、すぐに房子がそれを見つけて、嬉しそうに走《か》け出して来て兄を中へ案内した。青々としたすべての葉が、今|灌《そそ》ぎかけられた水のためにいっそう生々と光沢を添えて、見るからに健康そうで幸福そうであった。煌々《きらきら》と光る露のダイヤモンドが、方々で幽《かす》かな音を立ててしきりに滴《したた》っていた。
二人は
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