でさ」と事も無げに云った。彼は、自分の無分別のために飛んだ気の毒な事をしてしまったものだと、心から悲しく思った。……そこで、彼は、その三つの死骸を一つの彩色のしてある玩具箱の中へ入れて、例の大きな柳の樹の根元へ持って行って、丁寧に葬ってやった。――
 庸介は、そこの赤楊《はん》の木の根に尻もち[#「尻もち」に傍点]をついて、われにもなく、恍惚《こうこつ》として遠い昔に思を馳《は》せているのであった。彼の足もとのあたりには、小さな赤蟻の群が頻りに何か忙しそうに活動していた。彼の虚《うつろ》な目は見るともなしにそれに見入っていた。
「あら、兄さん。まあ、そんな所で何をしていたの?」
 急に、つい近くで、こう呼びかける房子の透き通った声がした。びっくりして目を上げると彼がさっき渡って来た小流れの方から房子と律子とが走《か》け出して来るのが見えた。二人とも、海水浴をする時のような、鍔《つば》の広い麦藁帽をかぶっていた。そして妹の方は長い竹の先端へ小さな網を結び附けたものを持ち、姪の方は、絵模様の附いた玩具のバケツをさげているのであった。
 房子は、庸介のそばへ来ると、少し甘えた調子で、
「律子
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