その巣を覗きに行った。
彼の背丈《せい》を埋めそうに麦が伸びて、青い穂が針のようにちかちか[#「ちかちか」に傍点]と光っていた。菜の花が放つ生温い香気が、彼を噎《む》せ返らせそうにした。
五日目の午後、学校から帰ってすぐにそこへ駈けつけた時、彼はとうとう、昨日までの三個の卵の代りに、飛び立つ事ができないでしきりに鳴いている三羽の小さな雛を見た。彼は、あまりの嬉しさに両の目から涙が流れ出たほどであった。手で触ってみると、赤々した肌が柔かくて暖かった。
彼はそれを籠の中へ入れて育てた。水といろいろの食物とを与えた。青菜を擦ってこしらえた食物を彼等は一等お甘味《いし》そうにして食べた。彼が指先へそれを着けて籠の中へ突込むと、腕白《わんぱく》そうな大きな眼を見開いて、黄色い縁《ふち》のある三角の口を大きく開けて、争うてそれを食べるのであった。
ところが、一週間と経たないうちに、お尻の所がいちように青く腫《ふく》れ出して、腐れ出して、とうとう三羽とも可哀相にころり[#「ころり」に傍点]と倒れてしまった。
下男の敬作(そうそう、あの頃はそういう名の男が居たっけ。)は、
「糞《ふん》づまり
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