よ。……何だってそう薄気味悪るく俺を凝視《みつ》めるのだ。なあにお前達のようなものに幾ら睨まれたって俺の値打は決して変らないのだからね。何で変ったりなんぞするものか。……しかし厭だ。もう止してくれ。お前に用はない。早くあっちへ行ってくれ。」
こう呟《つぶ》やき出すものなどもあった。彼が、客室の床の間の前に立った時、そこに何か黒く光る木の台に載せられてあった白色の半透明な石材の香爐と、そしてそれに施こされてあるきわめて微細な彫刻とが確かにそうであった。庭に在る、苔《こけ》むした怪しげな古い石や、不自然に力《りき》みかえっている年老いた樹木やは、彼に対して皮肉な、不明瞭な説明を試みた。否、説明ではない、それはむしろ毒々しい嘲笑であった。そして彼はどこへ行っても、自分自らのこの上もなく貧しい事と、何物とも馴染《なじ》み得ない孤独とを感じた。
帰郷して五日目の朝、彼は初めて裏門を出て、そこに遠く展《ひら》けている豊かな耕原を眺めた。
夏の真紅な日光があらゆる物の上に煌々《こうこう》と光っていた。彼の目にそれが痛く感じられるほどであった。遠い左手に当って大きな桃林があった。その林の上では薄
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