わして貰いたいと思っているんだがね。……」と、云った。
彼は、すぐ今日からでもお手伝しようと云い出した。それではとにかくその原稿を見せようから、という約束をして二人ともその応接間から外に出た。そこの戸口の所で二人は右と左とに別れた。
四
翌日の午後には夕立があった。それから二三日また一滴も降らなかった。その代りに夜は溢れるように露が何でもかんでもを潤《うる》おした。
庸介は家の中を、あっちの部屋、こっちの部屋とぶらぶら見舞って歩いた。いかにも興味なさそうにしながらも色々の物を一々じっと凝視《みつ》めては過ぎて行った。口を堅く閉じて一言も物を云わなかった。それからまた、庭へ出て行った、家のまわりをゆっくり巡《めぐ》った。裏手にある納屋《なや》や小屋類の戸を細目に開けて、薄暗い内部をそとから覗き込んだりした。しかしこれらの生活は彼にとって決して愉快なのではなかった。それと同じように、そうして彼にみまわれ、彼に凝視められるすべての物もまた決してそれを愉快には感じなかったであろう。それどころではなく、中には彼の視線に対して、明らかに醜い反感を示し、
「悲惨なる友よ。虚無の眼
前へ
次へ
全84ページ中16ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
相馬 泰三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング