んのお言葉を伝へたとは到底思ひもよらぬ事ですが、其に因れば漱石さんは二重の誤解をなさいました。
(一)私が『夏目発狂』云々の打電をしたことのないのに打電したとの誤解。
(二)誰が発電したにせよ、せぬにせよ、発電があつたとすれば前後の事情より察しても分る通り其発電者は好意上よりなりしを悪意よりとの誤解。
外ならぬあなたのお言葉ですから、到底之を否定する事は出来ませんが、実際夏目漱石先生がああいふ言葉を発せられ、ああいふ考を抱かれたとは、どうしても信じたくないのであります。
帰朝以来千駄木町のお宅に参上したこともあります、蛟竜池底を出でて淵に躍る前後は度々賞讚と渇仰の言を呈したこともあります。漱石全集中の書翰部にある通り、漱石さんの自画像に懇篤の言を添へられたのを頂戴したこともあります。其の漱石さんが私を目して『我が失脚に乗ぜんとて奸策を弄したもの』と思はれ、又人に口外されたとは、どうしても論理に合はず、常識の所見にも合はぬ次第です。『怨を匿《かく》して友とするを左丘明は恥づ、丘も亦恥づ』と孔夫子が仰せられました。しかし何度申しても外ならぬあなたが『良人がかく曰つた』と公言される上は全
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