漱石さんのロンドンにおけるエピソード
夏目夫人にまゐらす
土井晩翠

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)匿《かく》して

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)所謂奸策[#「奸策」に傍点]

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ブラ/\して
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 夏目夫人、――「改造」の正月号を読んで私が此一文を書かずには居れぬ理由は自然に明かになると思ひます、どうぞ終まで虚心坦懐に御読み下さい。
 漱石さんが東京帝国大学英文学の卒業生で私共の先輩であつたことは曰ふ迄もありません。『英国詩人の天地山川に対する観念』などを『哲学雑誌』で田舎書生が驚嘆の目に読んだのは三十余年の昔です。そして此渇仰の大家の風貌に初めて接したのは『塩釜街道に白菊植ゑて何を聞く聞く、ソリヤ便りきく』の名邑を去る一里余、あやめが浦の海水浴場地の一ホテルに於てでした。『夏目君が……館に来てゐる、先輩に対する礼としてでも往訪するんだが同伴しないか』と私を誘うて下すつたのは同じく英文科の先輩(目下二高の教頭)玉虫一郎一さんでした、同郷の秀才で後同
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