のびきゝけむつまごとか。

そのわくらばのてすさびに
すゞろにゑへるひとごゝろ
かすかにもれしともしびに
はなのすがたはてりしとか。

たをりははてじはなのえだ
なれしやどりのとりなかむ
おぼろのつきのうらみより
そのよくだちぬはるのあめ。

ことばむなしくねをたえて
いまはたしのぶかれひとり
あゝそのよはのうめがかを
あゝそのよはのつきかげを。

  哀歌

同じ昨日の深翠り
廣瀬の流替らねど
もとの水にはあらずかし
汀の櫻花散りて
にほひゆかしの藤ごろも
寫せし水は今いづこ。

心ごゝろの春去りて
色こと/″\く褪めはてつ
夕波寒く風たてば
行衞や迷ふ花の魂
名殘の薫りいつしかに
水面遠く消えて行く。

恨みを吹くや年ごとの
瑞鳳山の春の風
をのへの霞くれなゐの
色になぞらふ花ごろも
とめし薫りのはかなさは
何に忍びむ夕まぐれ。

暮山一朶の春の雲
緑の鬢を拂ひつゝ
落つる小櫛に觸る袖も
ゆかしゆかりの濃紫
羅綺にも堪へぬ柳腰《りうやう》の
枝垂《しだり》は同じ花の縁
花散りはてし夕空を
仰げば星も涙なり。

池のさゞ波空の虹
いみじは脆き世の道を
われはた泣かむ花の蔭
其花掃ふ夕
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