オり行く、
星斗は開く天の陣
山河はつらぬ地の營所、
つるぎは光り影冴て
結ぶに似たり夜半の霜。

嗚呼陣頭にあらはれて
敵とまた見ん時やいつ、
祁山の嶺に長驅して
心は勇む風の前、
王師たゞちに北をさし
馬に河洛に飮まさむと
願ひしそれもあだなりや、
胸裏百萬兵はあり
帳下三千將足るも
彼れはた時をいかにせむ。

成敗遂に天の命
事あらかじめ圖られず、
舊都再び駕を迎へ
麟臺永く名を傳ふ
春《はる》玉樓の花の色
いさほし成りて南陽に
琴書をまたも友とせむ
望みは遂に空しきか。

君恩酬ふ身の一死
今更我を惜まねど
行末いかに漢の運、
過ぎしを忍び後しのぶ
無限の思無限の情、
南成都の空いづこ
玉壘今は秋更けて
錦江の水痩せぬべく、
鐵馬あらしに噺きて
劔關の雲睡ぶるべく。

明主の知遇身に受けて
三顧の恩にゆくりなく
立ちも出でけむ舊草廬、
嗚呼鳳遂に衰へて
今に楚狂の歌もあれ
人生意氣に感じては
成否をたれかあげつらふ。

成否を誰れかあげつらふ
一死盡くしゝ身の誠、
仰げば銀河影冴えて
無數の星斗光濃し、
照すやいなや英雄の
苦心孤忠の胸ひとつ
其壯烈に感じては
鬼神も哭かむ秋の
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