忘れ
心も空に佇ずめば
風は凉しく影冴えて
雲間を洩るゝ夏の月
一輪霞む朧夜の
花の夢いまいづこぞや。
憂《うき》よ思よ一春の
過ぎて跡なき夢のごと
にがき涙もおもほへば
今に無量の味はあり
浮世を捨てゝおくつきの
暗にとこしへ眠らんと
願ひしそれも幸なりき。
流はゆるし水清し
樂《がく》の、光の、波のまに
すゞしく澄める夜半の月、
あゝ自然の心こゝろにて
胸に思のなかりせば
樂しかるべき人の世を。
籠鳥の感
嗚呼青春の夢高く
理想のあとにあこがれて
若き血汐の躍るとき
人も自在の翼あり。
自在の翼また伸びず
現《うつゝ》の籠に囚はれて
餌に鳴音を搾るとき
狂ふ※[#「口+斗」、23−上−13]を誰れか聞く。
狂ふ※[#「口+斗」、23−上−14]もしづまりつ
籠を天地と眺めては
御空のをちも忘られむ
理想の夢もさめ果てむ。
こゝに囚はれこゝにやむ
あだし命の一時や
うたてうたかたうつゝ世を
我嘆かんや笑はんや。
馬前の夢
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〔“Etre d' un sie`cle entier la d' pense'e et la
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