づゝに
そよふく風は朝波に
替はすは愛のことのはか
「自然」は常にほゝゑめど
世は長への春ならず。

見よや緑りの川柳
更けて葉越しに青白く
片破月の沈むとき
見よやみそらに影曳きて
恐ぢ驚ける魂のごと
流るゝ星の落つるとき。――

夢より淡く「北光[#「北光」に「(四)」の注記]」の
光微かに薄らぎて
氷の山にかゝるとき
あるは斗牛の影冰る
悲き光波のへに
破船の伴の望むとき。――

夕暗空に聲もなく
影もわびしく稻妻の
またゝくひまに消ゆるとき
誰か憂ひに閉されて
望む光の淋しさに
我世の樣をたぐへざる。

もゝとせ千歳秋去らば
樂土は實《じつ》となるべしや
人と人との爭に
我世の惱絶えざらば
花たが爲めの薫りぞや
星たが爲めの光ぞや。

弱き脆きをしへたぐる
あらびを見るもいつまでか
悟の光暗うして
時の徴候《しるし》は分かねども
望めわが友いつまでか
「力《ちから》」は「正《せい》」に逆ふべき。

さればうき世の雲は晴れ
つるぎは銷けて、天日の
光と照らんあさぼらけ
人の心に恨なく
邦の間に怒なく
我世の上にあらびなく。――

愛と自由と平等《へいとう》の
まことの光かゞやきて
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