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Behind the veil! behind the veil !”
     ―Tennyson : In Memoriam.
[#ここで字下げ終わり]
[#ここで横組み終わり]

   (一)[#「(一)」は縦中横]

思入日を先きだてゝ
たそがれ近き大空に
うかびいざよふ雲のむれ
暮行くけふの名殘とて
見るめまばゆきあやいろを
染むるは何のわざならむ。

あるは幾重の空のよそ
あるは幾重の嶺のうへ
かろく流るゝくれなゐは
セラフ、ケラブの旗を見せ
ゆるく靉びくむらさきは
あまつをとめの裾や曳く。

夕/\の空の上
替るもゝちの面影を
替らぬ愛に眺むれば
たゞ聯想の端《はし》となる
雲よ自在のはねのして
いづくのはてに翔けり行く。

あゝ夕雲のかけりゆく
空のあなたぞなつかしき
心の渇きとゞむべき
そこに生命《いのち》の川あらむ
眞理のかどを開くべき
そこに秘密《ひみつ》の鍵あらむ。

嗚呼夕雲のはねのうへ
たれか「涙の谷」棄てゝ
荒鷲翔けり風迷ふ
空のあなたに飛行かむ
浮世の暗にしられざる
光はそこにてるべきに。

花より花にむれとびて
蜜を集むる蜂のごと
星より星に光をと
飛行く魂を眺めけむ
詩人[#「詩人」に「(一)」の注記]のくしきまぼろしを
たれかうつゝに返すらむ。

   (二)[#「(二)」は縦中横]

消えしエデンの花園の
おもわは今も忘られず
ほす味にがきさかづきの
底なる澱《おり》に醉はんとて
塵の浮世に塵の身は
かくもいつまで殘るらむ。

涙の谷にさまよひて
ねぬ夜の夢に驚けば
こゝにバイロン血に泣きて
「死と疑の子」となのり
こゝにシルレル聲あげて
「理想は消ゆ」と※[#「口+斗」、13−下−5]ぶなり。

アボンの流[#「アボンの流」に「(二)」の注記]しづかにて
すゞしく月を宿せども
見えぬそこひに波むせび
グラスメヤア[#「グラスメヤア」に「(三)」の注記]の水面《みなも》にも
うつる此世の影見れば
たゞ海神《かいじん》の[#「海神《かいじん》の」に「(四)」の注記]なつかしや。

さればラインの岸遠く
思をこめ[#「思をこめ」に「(五)」の注記]て人は去り
ゼネワの夏の夕暮は
よその恨の歌[#「恨の歌」に「(六)」の注記]を添へ
深き嘆はネープルの
波も洗ひ[#「波も洗ひ」に「(七)」の注記]や得ざりけむ。

波に照れと
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