が課せられた題目の新詩發生時代に就ても面白い思ひ出が數々載せられてある、其中井上巽軒先生の御話がよく當時の實際を穿つて居る。
 先生の御話中には無いが、明治最初刊行の新詩は福澤先生のである、即ち「世界國づくし」、七五調で世界地理を歌ふた當時の破天荒である。今日から見れば、まづい點のあるを免れないが、『五大洲』を韻文であゝ迄に歌ふといふ事が確に偉い、しかも是は全く先生の餘技である。見返しには――
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『福澤諭吉著、素本世界國盡全三册明治五年壬申初冬、福澤論吉賣弘』
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とある、そして發端は――
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『世界は廣し萬國は・おほしといへど大凡《オホヨソ》・五つに分けし名目は・亞細亞阿非利加歐羅巴・北と南の亞米利加に・堺かぎつて五大洲・大洋洲を別に又・南の島の名稱《トナヘ》なり……』
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歐洲を歌つては――
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『……國の大小強弱も・時勢によつて浮き沈み・魯西亞普魯士墺地利・英と佛との五ヶ國は當時日の出の五大國・……(歐洲は)人民恆の産を得て・富國強兵天下一……兵備整ひ武器足りて・世界に誇る泰平の・その源を尋るに・本を務る學問の・枝に咲きたる花ならむ・花見て花を羨むな[#「花見て花を羨むな」に傍点]・本なき枝に花は無し[#「本なき枝に花は無し」に傍点]・一身の學に急ぐこそ[#「一身の學に急ぐこそ」に傍点]・進歩はかどる[#「進歩はかどる」に傍点]紆路《マワリミチ》・共にたどりて西洋の・道に榮る花を見む』
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 これは昭和十年の今日でも傾聽するに足る、流石は一代の先覺である。全篇三卷を讀み通すと、明治初年に於ける世界の大勢が朧げながら伺はれる。(書中の固有名詞などの書き方が頗る振つてゐるのも一興。内留《ナイル》河、比羅三井天《ピラミイデ》、尻屋《シリヤ》、羽禮須多院《パレスタイン》、奈保禮恩《ナポレオン》、和阿戸留樓《ワートルロー》、治部良留多留《ジブラルタル》、金田《カナダ》、輕骨田《カルコツタ》、荒火屋《アラビヤ》、衞士府都《エジプト》、麻田糟輕《マダカスカル》等々々《トウトウトウ》)
 但し流石の先生も、米國に行て其物質文明に眩惑されて、極端の米國崇拜となつたのは無理もない。
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『…天の道理に基きて・國に報ゆる丹心の・誠に出で
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