「一握の砂」序
藪野椋十

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)仁《じん》

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世の中には途法も無い仁《じん》もあるものぢや、歌集の序を書けとある、人もあらうに此の俺に新派の歌集の序を書けとぢや。ああでも無い、かうでも無い、とひねつた末が此んなことに立至るのぢやらう。此の途法も無い処が即ち新の新たる極意かも知れん。
定めしひねくれた歌を詠んであるぢやらうと思ひながら手当り次第に繰り展げた処が、

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高きより飛び下りるごとき心もて
この一生を
終るすべなきか
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此ア面白い、ふン此の刹那の心を常住に持することが出来たら、至極ぢや。面白い処に気が着いたものぢや、面白く言ひまはしたものぢや。

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非凡なる人のごとくにふるまへる
後のさびしさは
何にかたぐへむ
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いや斯ういふ事は俺等の半生にしこたま有つた。此のさびしさを一生覚えずに過す人が、所謂当節の成功家ぢや。

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