何処やらに沢山の人が争ひて
鬮《くじ》引くごとし
われも引きたし
[#ここで字下げ終わり]

何にしろ大混雑のおしあひへしあひで、鬮引の場に入るだけでも一難儀ぢやのに、やつとの思ひに引いたところで大概は空鬮《からくじ》ぢや。

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何がなしにさびしくなれば
出てあるく男となりて
三月にもなれり

とある日に
酒をのみたくてならぬごとく
今日われ切に金を欲りせり

怒る時
かならずひとつ鉢を割り
九百九十九割りて死なまし

腕拱みて
このごろ思ふ
大いなる敵目の前に躍り出でよと

目の前の菓子皿などを
かりかりと噛みてみたくなりぬ
もどかしきかな

鏡とり
能ふかぎりのさまざまの顔をしてみぬ
泣き飽きし時

こころよく
我にはたらく仕事あれ
それを仕遂げて死なむと思ふ

よごれたる足袋穿く時の
気味わるき思ひに似たる
思出もあり
[#ここで字下げ終わり]

さうぢや、そんなことがある、斯ういふ様な想ひは、俺にもある。二三十年もかけはなれた此の著者と此の読者との間にすら共通の感ぢやから、定めし総ての人にもあるのぢやらう。然る処俺等聞及んだ昔から今までの歌に、斯んな事
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