まるで友達がないと云うのではありませんでした。
家の家畜小舎には、サーツバシとパングリと云う二匹の牝牛がいました。彼等は、唯の一度も、自分達の名が娘の唇から呼ばれるのを聞いた事はありませんでした。が、彼等はスバーの跫音を覚えていました。言葉にこそ云わないけれども、彼女は、いかにも可愛くて堪らなそうに何か呟きます、牛共は、どんなに多くの言葉より、此優しい呟きをさとりました。彼女があやし、叱り、機嫌などを取ってやると、喋る大人がしてやるより、遙か素直にききわけます。
スバーは小舎に入って来ると、サーツバシの首を抱きました。又、二匹の友達に頬ずりをします。パングリは、大きい親切そうな眼を向けて、スバーの顔をなめるのでした。
スバーは、毎日きッと三度ずつは牛小舎を訪ねました。他の人達は定っていません。其ばかりか、彼女は、いつ何時でも辛いことを聞かされさえすると、時に構わず此物を云わない友達の処に来ました。牛達は、スバーの心にある痛みを、彼女の悲しそうな静かな眼つきから察しるようでした。彼女の傍によって来てやさしく角を腕などになすりつけ、言葉に云えない途方に暮れた様子で、慰めようとするので
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