りずっと自分に親しい一部分です。娘の欠点は、自分の恥の源《もと》ともなります。父親のバニカンタは、却って他の娘達より深くスバーを愛しましたが、母親は、自分の体についた汚点《しみ》として、厭な気持で彼女を見るのでした。
 例え、スバーは物こそ云えないでも、其に代る、睫毛の長い、大きな黒い二つの眼は持っていました。又、彼女の唇は、心の中に湧いて来る種々な思いに応じて、物は云わないでも、風が吹けば震える木の葉のように震えました。
 私共が言葉で自分達の考えを表す時、仲だちとなるものは容易に見つかりません。大抵の場合不確な考えの翻訳と云う順序を踏まなければならず、為に、私共は、よく間違って仕舞います。
 けれども、スバーの黒い眼には、何の翻訳もいりませんでした。心そのものが影をなげました。眼の裡に、思いは開き閉じ、耀き出すかと思えば、闇の中に消え去ります。沈んでゆく月のように凝っと一つところにかかったり、又は、迅い閃く稲妻のように、空――眼全体を照したり。生れ落るとから、唇の戦きほか言葉を持たずに来たものは、表し方に限りがなく、海のように深く、曙、黄昏《たそがれ》が光りや影を写す天のように澄ん
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