代って物を云う、両方の眼からこぼれる涙は止めようもありません。其晩は、丁度十日月の夜でした。スバーは部屋を脱け出し、懐しい川岸の、草深い堤に身を投げ伏せました。まるで、彼女にとっては強い、無口な母のようにも思われる「大地」に腕を巻きつけて、
「どうぞ、お母さん、私を行かせないで下さいまし。貴女のお手で、私を確《しっ》かり抱いて頂戴。斯うやって、私がすがり付いているように。そして、どうぞしっかり捕えていて下さい」
と云いでもするように。
カルカッタの家に着いてからの或る日のことでした。スバーの母は、大変な心遣いで娘に身なりを飾らせました。髪の毛をレースのように編んで畳み込み、体の彼方此方に飾りを下げ、スバーの自然の美しさを代なしにするに一生懸命になりました。
スバーの眼は、もう涙で一杯です。泣いて瞼が腫れると大変だと思う母親は、きびしく彼女を叱りました。が、涙は小言などには頓着してはいません。花婿は、友達と一緒に花嫁を見に来ました。神が、彼に供える犠牲の獣を選びに被来《いらし》ったように、スバーを見に来た人を見ると、親達は心配とこわさで、クラクラする程でした。物かげでは、母が高い声を
前へ
次へ
全16ページ中13ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
タゴール ラビンドラナート の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング