たち[#「娘たち」は底本では「娘だち」]の小隊がいきました。
 ローリイは、かけて来て小隊をむかえ、じぶんの友だちに紹介しました。芝生が応接間になり、そこに陽気な光景がひろげられました。すぐにみんなは心やすくなり、えんりょなく話し合いました。
 テントやおべんとうは、クロッケーの道具などといっしょに、さきへ運んでありましたので、一行は二隻のボートにのりこんで岸をはなれました。ローレンス氏は、岸に立って帽子をふっていました。ローリイとジョウが一隻のボートをこぎ、ブルック先生と大学生のネッドが、もう一隻のほうをこぎました。ジョウのおかしな帽子は、みんなを笑わせて気分をやわらげ、ボートをこぐと、つばがばたばたしてすずしい風が起りましたし、ジョウにいわせれば、もし夕立でもふれば、みんなをいれてあげることができるそうでした。
 メグは、もう一隻のボートにのっていましたが、ブルック先生とネッドにとって、よろこばしい存在で、この二人の青年は、メグがいるので、いつもよりいっそうじょうずにボートをこぎました。
 ロングメドウについたとき、もうテントがはられ、クロッケーをするための、鉄輪がとりつけてありました。そこは、気持のよい緑の野原で、まんなかに、三本の樫の樹が、広く枝をはり、クロッケーをする芝生は、きれいに刈りこまれていました。
「キャンプ・ローレンスばんざい!」
 みんなが、よろこびの[#「よろこびの」は底本では「よろこのび」]声とともに上陸すると、ローリイがいいました。
「ブルック先生が司令官で、ぼくが兵站総監、ほかのみんなは参謀です。それから、女のかたはお客さま、テントはみなさんのために、とくに張ったもので、樫の樹のところは客間、ここが食堂、そちらが台所です。あまり暑くならないうちに、ゲームをやって、それから、ごちそうの支度をしましょう。」
 フランク、ベス、エミイ、それからグレースは芝生に腰をおろし、ほかの八人がクロッケーをはじめました。ブルック先生はメグとケイトとフレッドと組み、ローリイは、サリー、ジョウ、ネッドと組みました。みんな張りきって、ものすごく戦い、しばらくは、どちらが勝つか敗けるわかりませんでした。そのうちに、フレッドが、だれも近くにいなかったので、じぶんの打ちいいように、ボールを靴のさきでころがしました。そして、
「ぼくはいったよ。さあ、ジョウ、あなたを敗かして、ぼくが一ばんだ。」と、いいました。
 ジョウは、ずるいフレッドにむかって、やり返しました。そして、しばらく戦いましたが、とうとう勝つことができました。
 ローリイは、帽子をほおりあげましたが、お客の敗けたのをよろこんではいけないと気がつき、小声になってジョウにいいました。
「きみ、えらかったぞ。あいつインチキやった。ぼく見てた。みんなの前でいってやることできないが、二度とやらないだろう。」
 メグも、髪をなおすふりをしてジョウをひきよせ、さも感心したというような顔で、
「ほんとに、しゃくだったわ。でも、よくこらえたわ。あたし、うれしかった。」
「ほめないでよ。メグ。今だってあいつの横っ面はりとばしたいくらいよ。もうすこしであのとき、かんしゃく玉がはれつしそうだったわ。」と、ジョウは、フレッドをにらみつけました。
 時計を出して、ブルック先生がいいました。
「さあ、おべんとうにしましょう。兵站総監、きみは火を起させたり、水をくませたりして下さい。マーチさんとサリーさんとぼくとで食卓の支度をするから、たれかコーヒーをじょうずにいれる人はいませんか?」
「ジョウがじょうずです。」と、メグはよろこんで妹をすいせんしました。
 ジョウは、このごろ、料理のけいこをしたので、こんな名誉な役をひきうけられるのだと思いながら、支度にかかりました。そのあいだに、少年たちは火を起し、近くの泉から水をくんで来ました。司令官とその部下は、すぐにテーブルかけをひろげ、食べものや飲みものをならべ、みどりの葉でかざりました。コーヒーの用意ができると、みんな席につきました。食慾はさかんでしたし、まことにたのしく、しばしば起る大きな笑い声は、近くで草を食べているおとなしい馬をおどろかせました。
 食事がすむと、すずしくなるまで、なにか遊びをしようということになり、樫の樹のかげ、すなわち客間へ席をうつしました。
 ケイトが、尻とり話をしようといいました。
「いいですか、たれかが、勝手なお話をはじめるのよ。そして、好きなだけつづけて、おもしろそうなところで、ぷつっときってしまうのよ。すると、つぎの人がそれをつづけ、じゅんに話していくと悲しいのやおかしいのや、ごっちゃになっておもしろいわ。さ、では、どうぞあなたから。」と、ケイトが命令するような調子でいったので、ブルック先生がはじめました。
「むかし、ある一人の騎士が立身出世しようと思って旅に出ました……」
 ブルック先生は、ゆたかな想像で話しました。この騎士は二十八年も旅をつづけ、ある王宮へいきますと、王さまはまだならしていない馬を、うまくしこんだ者に、ほうびを与えると申されました。そこで、騎士はその馬をしこむために、まい日、のりまわしましていると、お城に美しいおひめさまが、魔法のためにとじこめられ、自由になるお金をつくるために、糸をつむいでいることを知りました。騎士は、貧乏なので、お金はなし、しかたがないので、お城の扉をたたくと……と後の待たれるように話をきりました。
 それをつづけたのは、ケイト、ネッド、メグ、ジョウ、フレッド、サリー、エミイ、ローリー、フランクというじゅんでしたが、話のすじは、じつに変化していき、おほりに落ちたり、墓場のようなろうかを歩いていったり、そこで見つけたかぎ煙草をかいだら首がおちたり、そうかと思うと、たちまち生きかえったり、箱の中でダンスしたら、それが軍艦にかわったり、聞いている者も、ときには笑い出し、ときには眉をしかめ、はてしもなく変化していく話をおもしろく思いました。
 話がすむと、サリーがいいました。
「ずいぶん、へんな話でしたね。だけど、練習すれば、もっといいのができそうね。それじゃ、今後はツルースっていうあそびごぞんじ?」
「どんなの?」
「そうね、みんなで手をかさねておいて、かずをきめて、じゅんじゅんに手をのけていって、そのかずにあたった人が、ほかの人の質問になんでも正直に答えるの。それやおもしろいわ。」
「やってみましょう。」と、新しいことの好きなジョウがいいました。そして、みんなで手をかさね、じゅんじゅんにのいていくと、ローリイがあたりました。
「だれ、あなたの尊敬する英雄は?」と、ジョウが尋ねました。
「おじいさんと、ナポレオン。」
「一ばん美しいと思う女の人は?」と、フレッド。
「もちろん、ジョウ。」
 ローリイの、あたり前さというような顔つきに、みんなどっと笑ったので、ジョウは、
「ずいぶん、ばかげた質問ね。」と、けいべつするように肩をすぼめました。
「さ、もう一度やろう。おもしろいね。」と、フレッドがいいました。今度はジョウのばんでした。
「あなたの一ばん[#「一ばん」は底本では「一がん」]大きい欠点は?」と、フレッドが尋ねました。
「かんしゃく。」
「一ばんほしいものは?」と、ローリイがいいましたが、ほしいものをいえば、ローリイがくれそうなので、わざと、
「靴のひも」と、答えました。
「そんなのだめ、ほんとのこといわなくちゃ。」と、ローリイ。
「天才、あなたは、あたしに天才をくれたいと思わない?」と、ジョウはいって笑いました。
「男の美点のなかで、なにが一ばんだいじ?」
「勇気と正直」
 すると、フレッドが、
「今度はぼくのばんだ。」と、いいました。
 ローリイが、あれをいっておやりと、ささやいたので、ジョウはすぐにきり出しました。
「クロッケーでインチキやらなかった?」
「うん、ちょっと。」
「よろしい、きみのさっきの尻とり話、海のライオンという本からとらなかった?」と、ローリイ。
「いくらかね。」
「イギリス国民は、あらゆる点で完全と思いますか?」と、サリー。
「そう思わなかったら、イギリス人の自分は、はずかしいですよ。」
「それでこそほんとのイギリス人だ。さあ、今度はサリーのばんだ。」
「あなたは、じぶんをおてんば娘だと思いませんか?」と、ローリイ。
「ひどいわ。そんな女じゃないわ。」
「なにが一ばんきらい?」と、フレッド。
「くもと、ライス・プディング。」
「一ばん好きなのは?」と、ジョウ。
「ダンスとフランスの手ぶくろ。」
 そのとき、ジョウが、頭をふって、
「つまらない遊びね。それより作家トランプを、おもしろくやらない?」
 ネッドとフランクと小さい女の子がくわわって遊んでいるあいだ、[#「、」は底本では「。」]年上の三人はそこからはなれて腰をおろして話しました。ケイトは、ふたたび写生帳をとり出してかき、メグはそれをながめブルック先生は草の上にねころんでいました。メグは、ケイトのかくのを見て、おどろきの声で、
「なんておじょうずなんでしょう! あたしもあんなにかいてみたいわ。」と、いいました。
「どうして、おけいこなさらないの? あなたは絵の天分がおありですわ。」
 それから、家庭教師のことになり、ケイトは家庭教師について習ったから、あなたも家庭教師に習うといいといいました。メグは家庭教師につくどころか、じぶんは家庭教師として教えにいっているといいますと、ケイトは、
「まあ、そうなんですの。」と、いいましたが、そのいいかたは、おやおや、いやなことだと、いうような調子でした。ブルック先生は、とりなすように、
「アメリカのおじょうさんがたは、先祖がそうであったように、独立し自活することがたっとばれるのです。」と、いいました。
 ケイトは、眉をひそめて、去っていきましたが、それを見送りながらメグはいいました。
「あたし、イギリス人が、女の家庭教師をけいべつすることを忘れていました。」
 ブルック先生は、むしろ満足そうに、
「あちらでは、男の家庭教師だってよくいいません。なさけないことですがね、なんといっても、われわれはたらく者には、アメリカほどいいところはありません。」と、いったので、メグはじぶんのことを嘆いたのを、むしろはずかしくなりました。
「ええ、あたしアメリカに生れたのをうれしく思いますわ。そのために、たくさんのよろこびを得ているのですから。ただ、あたし、あなたのように教えることが好きになれたら、どんなにいいでしょう。」
「ローリイがあなたの生徒だったら、あなたも教えるのがたのしくなります。来年ローリイと別れなければならないので、ざんねんですよ。」
「大学へいらっしゃるのでしょう?」
「そうです。準備はだいたいできています。ローリイがいけば、ぼくは軍隊にはいります。」
「まあ、すてき! わかい男のかたは、兵隊にいきたがるのはほんとですね。お家にのこるおかあさんや、姉妹たちはつらいでしょうが。」
「ぼくは一人ぼっちです。友だちもすくないし、ぼくが死のうが生きようが、たれも心配する者はいません。」
「ローリイやおじいさんが心配なさいますわ。それに、あたしたちだって、あなたがおけがでもなされば、悲しみますわ。」
「ありがとう。そう聞いてうれしく思いますよ。」と、ブルック先生は、また快活になって話しつづけましたが、ネッドが馬にのって来たので、しずかに話し合うことはできませんでした。
 たった一つ、メグやジョウのおどろいたことがありました。それは、ベスが、人をよろこばせたいという一心から、足のわるいフランクに話を聞かせてやっている光景でした。それは、また、フランクのいもうとにとっても、びっくりするようなことで、いもうとのグレースは、
「フランクにいさんが、あんなに笑っているの知らないわ。」と、いいました。
 日ぐれ近くまで、また、いろいろのあそびをしました。帰り支度は、みんなでやり、テントをたたみ、クロッケーの鉄輪をぬき、一行はボートにのりこみ、声はりあげてうたいながら
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