は底本では「しろものでほ」]なく、えびには手こずり、じゃがいもはなまにえ、白ジェリイはぶつぶつだらけでした。
「まあ、いいわ。ビーフとパンにバタをつけて食べてもらえばいいわ。だけど、朝のうちまるで、むだになったのがくやしい。」
 ジョウは、いつもより三十分おくれて食事のベルを鳴らしましたが、いつもりっぱな料理を食べつけているローリイと、失敗をほじくり出すような好奇の眼と、それをしゃべり散らす舌をもつクロッカーの前にならんだ料理をながめて、ジョウは顔がほてり、すっかりしょげてつっ立っていました。
 ああ、料理はちょっと味をみただけで、のこされていきます。エミイはくつくつ笑い、メグはこまった顔をし、オールド・ミス・クロッカーは口をつぼめるし、ローリイは景気づけようとして大いにしゃべりました。ジョウの最後の頼みはいちごでした。ガラスの皿に赤いいちごをもり、おいしそうなクリームがかかっています。だが、それを食べた[#「食べた」は底本では「食べた・」]クロッカーは、しかめ面して[#「して」は底本では「しで」]あわてて水を飲みました。ローリイは口をゆがめながらも男らしく食べてしまいました。エミイは、むせかえり、ナプキンで口をおさえて、あたふたと食卓からはなれていきました。ジョウはふるえながら、
「まあ、どうしたの?」と、さけびました。
「お砂糖のかわりに塩をいれたんだわ。クリームすっぱいわ。」と、メグが答えました。
 ジョウは、うめき声をたてて、イスにたおれかかりました。ところが、がまんをしようとしても、おかしくてたまらないというような、ローリイの顔につきあたると、ジョウはきゅうにこの事件がいかにもこっけいに思われ、涙のこぼれるほど笑い出しました。すると、ぶつくさ屋のクロッカーもいっしょに、みんな笑い出し、不幸な宴会は、ともかく陽気におわりました。
「あたし、もう片づける元気ないわ。だから、おとむらいをして、すこしおちつきましょう。」
 ジョウは、みんなが食卓をはなれたときにいいました。クロッカーは帰っていきました。きっとこの料理のことを、しゃべりたかったからでしょう。みんなはベスのために、やっとおちつきました。ローリイは、木立のなかの、しだの下にお墓をほり、カナリヤはやさしいベスの手で、涙とともにうめられ、こけでおおわれ、すみれとはこべの花輪が、墓石の上にかざられました。墓石には、ジョウが、食事の仕度をしながらつくった詩が書かれていました。
 おとむらいがすむと、ベスは悲しみと、さっきのえびとで、胸がいっぱいになり、じぶんの部屋へひっこみましたが、ベッドがそのままになっていて、ねる場所もありませんでした。片づいているうちに、悲しみもやわらいで来たので、台所で片づけものをしているジョウの手つだいをしました。二人はへとへとにつかれました。ローリイは、エミイを馬車にのせてつれ出しました。すっぱいクリームで気持がわるくなっていたエミイは、大よろこびでした。
 やがて、おかあさん[#「おかあさん」は底本では「おかさん」]が帰宅しました。三人の娘たちがはたらいていましたし、戸だなをちょっとのぞいてみて、経験の一部が成功したことがわかりました。
 ところが、やっと片づけたのに、三人は休むこともできませんでした。と、いうのは、数人の来客があり、それお茶、それお使いというわけでした。けれど、露とともにたそがれがせまるころ、姉妹たちは六月のばらが美しく咲きはじめたポーチに集りました。
「なんていやな日だったでしょう。今日は。」
 ジョウが口をきると、メグが、
「いつもより短いような気はしたけど、とてもいやだったわ。」
「ちっとも家みたいじゃないわ。」と、エミイ。
「おかあさんと、カナリヤがいなければ、家のような気がしないわ。」とベスは、涙ぐんで、からの鳥かごを見あげました。
「みなさん、かあさんは帰って来ましたよ、ベス、カナリヤがほしければ、明日買ってあげましょうね。」と、いいながら、おかあさんも娘たちの仲間入りをしました。おかあさんも、一日のお休みが、あまりたのしそうではありませんでした。
「みなさん、あなたたちの経験は、もうたくさんですか!」
「あたし、もうたくさん。」と、ジョウ、ほかの三人も、声をそろえて、
「あたしも!」
「おかあさんは、みなさんが、どんなふうにやるかと思って、わざとなにもかもほうって、出かけました。けれど、今日の経験で、みなさんは、家をたのしくするには、めいめいが、受持の仕事を忠実にやらなければならぬということがわかったと思います。ハンナとあたしが、みんなの仕事をしていれば、あなたがた[#「あなたがた」は底本では「おなたがた」]は、そう幸福で気らくだったとは思いませんが、とどこおりなくやっていけたのです。だから、かあさんは、だれもかれも、じぶんのことばかり思ったら、どんなことになるか、教訓としてみんなに見せておきたかったのです。あなたがたが、たがいに助け合い、まい日のお仕事があれば、ひまになったとき、それがとてもたのしく思えるし、くるしいときにはたがいに、しんぼうし合っていけば、家はどんなにたのしく美しいでしょう。わかりましたか?」
「わかりました。よくわかりました。」
 娘たちは、口々にさけびました。
「では、かあさんのいうことを聞いて、もう一度、小さい重荷をしょうのですよ。たまには重く思えても、みんなのためになり、なれればかるくなっていきます。はたらくことは健康にもよく、たいくつはしないし、わるい心も起らないものです。身体にも心にもよく、お金や流行ものなどより、精神力や独立心をあたえてくれます。」
 みんなは、はたらくことにきめました。よろこんで。ジョウは、お料理をけいこする、メグは、おかあさんにかわって、おとうさんへ送るシャツをぬう、ベスはピアノやお人形あそびにあまり時間をとれないで、まい日勉強する、[#「、」は底本では欠落]エミイは、ボタンのあなかがりがじょうずになるように、また文法にかなう言葉づかいのけいこをすると、てんでに決心をのべました。
「けっこうです。かあさんは、今度の経験がうまくいって、よかったと思います。もうくりかえさなくてもいいと思います。でもね。どれいのように、はたらきすぎないように、はたらくにもあそびにも、時間をきめて[#「きめて」は底本では「きめで」]、まい日を有益にたのしく送って、時間をじょうずに使い、時間のねうちをさとるようになさい。それできたら、貧乏でも、娘時代をたのしくすごせるし、年をとってからも後悔することもなく、この人生をりっぱに生きていけるのです。」
「よくわかりました。」と、娘たちは、おかあさんの教訓を、ふかくも心にとどめました。

          第十二 ローレンスのキャンプ

 ベスは郵便局長でした。たいてい家にいて、時間をきめて局へいくことができましたし、[#「、」は底本では「。」]かぎで小さな扉を開けて、郵便物をとって来て、くばるのがすきだったからです。七月のある日のこと、ベスはりょう手にいっぱい郵便物をかかえて帰り、家中にくばりました。
「おかあさん、はい、花束、ローリイは一度も忘れたことないのねえ。」と、いって、ベスはおかあさんの花瓶にさしました。
「メグねえさんには、手紙が一本、手ぶくろが片っぽ。」
 メグは、おかあさんのそばにすわって、シャツのそで口をぬっていましたが、
「あら、りょうほう忘れて来たのに。お庭に落して来やしない?[#「しない?」は底本では「しないい?」]」
「いいえ、郵便局に片っぽしかなかったわ。」
「片っぽなんていやだわ。でもそのうちに片っぽ見つかるでしょう。あたしのお手紙は、ドイツの歌の訳したのがはいっているだけ、きっとブルック先生がなさった[#「なさった」は底本では「なかった」]のね。」
「ジョウ博士には、手紙が二通、本が一冊、おかしな古帽子、帽子は大きくて、郵便局からはみ出していました。」
 ベスは、書斉でなにか書きものしているジョウに、笑いながらいいました。
「まあ、いやなローリイさん、あたし日にやけるから大きな帽子がはやるといいといったら、流行なんか気にしないで、大きな帽子かぶりなさいっていうから、あればかぶるといったの。いいわ。あたしかぶって、流行なんか気にしないこと見せてあげよう。」
 その帽子をそばの胸像にひっかけて、手紙を読みはじめました。それはおかあさんからの手紙で、ジョウの目はよろこびにかがやきました。
「愛するジョウ――あなたが、かんしゃくをおさえようと努めているのを見て、[#「、」は底本では「。」]かあさんはたいへんうれしく思っています。あなたはその試み、失敗、成功についてなにもいわないし、日々あなたを助けて下さる神さまのほかには、だれも見ていないと考えておいででしょう。けれど、かあさんものこらず見ていました。そして、りっぱな実がむすびそうですから、あなたの決心が真心からであることがわかります。愛する娘よ、しんぼう強く勇ましくやり通して下さい。かあさんが、あなたに同情をよせていることを、常に信じて下さい。」
「まあ、うれしい。百万円もらって山ほど賞讃されるよりうれしい。かあさんが助けて下さるんですもの、あたしやります。」
 ジョウは、顔をふせたので、うれし涙で原稿をぬらしてしまいました。やっと顔をあげたジョウはこのありがたい手紙を、ふいにおそって来る敵へのふせぎの楯にするつもりで、上衣の内がわにピンでとめました。
 もう一つの手紙はローリイからでした。
「やあ、親愛なるジョウさん、明日、イギリス人の男の子と女の子が二三人来るから、おもしろくあそびたいのです。天気がよかったら、ロングメドウへボートでいってテントを張り、べんとうを食べてからクロッケーをし遊ぼうというわけ。焚火をし料理をつくり、ジプシイみたいにやるつもり、みんないい人たちで、そういうことが好き、ブルック先生もいっしょで、男の子のかんとくをして下さるし、ケイト・ボガンさんが女の子をとりしまって下さいます。みんなぜひ来て下さい。食料の心配は無用、すべてぼくのほうで用意します。右とりいそぎ、あなたの永久の友ローリイ。」
「すてきだわ!」と、ジョウはさけんで、メグに知らせるためにいそぎました。
「ね、かあさん、いってもいいでしょう。いけばローリイも助かるわ。あたしボートこげるし、メグはおべんとうの世話ができるし、エミイやベスだってなにか役にたつわ。」
「ボガンの人たち、大人くさくなければいいのね。あの人たちのこと知ってる?」と、メグがいいました。
「兄妹四人ということしか知らないわ。ケイトはあなたより年上、ふた児のフレッドとフランクはあたしぐらい、グレースは九つか十でしょう。ローリイは、その人たちと外国で知り合ったんだって。兄妹のうち男の子が好きらしいのよ。でもローリイは、ケイトをあまり好きでないらしいわ。」
 メグとジョウは、着ていく服について話し合いました。キャンプだから、しわくちゃになってもかまわないものにすることにきまりました。ジョウは、
「さあ、精出して、今日中に、二倍の仕事をしておきましょう。明日、安心して遊べるように」といって、ほうきをとりにいきました[#「いきました」は底本では「いききした」]。
 つぎの日、いい天気を約束しに、お日さまが娘たちの部屋をのぞいたとき、そこでは、娘たちがたのしい遠足の仕度をしていました。ベスは、さっさと仕度をすまして、窓ぎわへいって、おとなりのようすを、たえず知らせました。
「あ、おべんとうをつめている。あら、ローリイが、まるで水兵さんみたいなかこうをして……」
 やがて、みんなの仕度ができました。ジョウは、ローリイがじょうだん半分でよこした旧式の麦わら帽子をかぶり、あかいリボンをしばりました。それを見て、メグがやめなさいというと、ジョウは
「あたし、だんぜんかぶっていくの。だって、かるくて大きくて日よけになるし、みんなおもしろがるわよ。」と、いって、平気で出ていきました。それにつづいて、はなやかな三人の娘
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