善関係をふかめる一助として、庭のすみに郵便局をつくったことであります。もとはつばめ小屋でしたが改造しました。手紙、原稿、本、小づつみ、なんでもとりつぎ、時間の節約に役だつと思います。両国民はそれぞれかぎをもちますわけで、ここにそのかぎを贈呈することをお許し下さい。」
 ウェラー氏が、かぎをテーブルの上において、自席にもどると、さかんな拍手、さけび声が起りました。つづいていろんな討議がおこなわれ、めいめい、かっぱつに意見をかわしました。そして、新人会員のばんざいを、最後にとなえて散会しました。
 たしかに、ローリイのサム・ウェラー氏の入会は、このクラブに生気をふきこみ、書くものでも、週報にちがったおもむきをそえました。郵便局は、すばらしい考えでした。たくさんの奇妙なものがとりつがれました。悲劇台本、ネクタイ、詩、漬もの、草花の種子、長い手紙、譜本、しょうがパン、[#「、」は底本では欠落]ゴム靴、招待状、注意書き、小犬などでした。ローレンス老人も、このあそびをおもしろがって、おかしな小づつみや、ふしぎな手紙や笑いの電報などを送って来ました。また、ローレンス家の園丁はマーチ家の女中ハンナにひきつけられ、本気で恋文を書いて来ました。その秘密がばれたとき、みんなはどんなに笑いころげたことでしょう!

          第十一 経験が教える

「[#「「」は底本では欠落]六月一日、明日はキングさんの家の人、みんな海岸へ出かけていって、あたしはひまになるの! 三ヶ月のお休み! なんてうれしいんでしょう!」
 あるあたたかい日、家へ帰って来たメグが、ジョウを見つけてさけびました。ジョウは、いつになく疲れたようすで、ソファの上に横たわり、ベスがそのほこりだらけの靴をぬがしてやっていました。エミイは、みんなのためにレモン水をつくっていました。
 ジョウがいいました。
「マーチおばさんも、今日お出かけになったわ。すてきでしょ。いっしょにいってほしいと、いわれやしないかと、びくびくしちゃった。それで、あたし、おばさんを早くたたせたいので、お気にめすように、それこそいっしょうけんめいにはたらいたわ。だけど気のきいたこのおつきを、つれていこうと思われたら大へんだと心配したの。それでおばさんを馬車にのりこませると、なにかいってたけど聞えないふりをして、大いそぎで逃げて帰ったの、ほんとに助かったわ[#「助かったわ」は底本では「助かったわわ」]。」
「よかったわね。それで、メグねえさん。この休みになにをなさるつもり?」と、エミイが尋ねました。
「うんと朝ねぼうして、なにもしないの。だって冬からこっち、朝早くからたたき起されて、ひとのためにはたらいてばかりいたんですもの。大いに休んであそぶのよ。」
「ふうむ、あたしはそんなだらけたの大きらい。たくさん本を集めておいたから、あの古い林檎の枝の上で、このかがやかしい少女時代をよくするために勉強するの。」と、ジョウがいいました。
「あたしたちも、勉強はやめにして、おねえさんのまねしてあそびましょう。」と、エミイがいうと、ベスも、よろこんで、
「ええ、いいわ。あたし新らしい[#「新らしい」は底本では「新ちしい」]歌をすこしおぼえたいし、人形さんの夏服もつくらなければならないし。」と、いいました。
 そのとき、おかあさんが、針仕事の手をやめて、みんなにむかっていいました。
「一週間、はたらかないであそんでごらんなさい。土曜日の晩になると、つまらないということが、きっとわかるでしょう。」
「そんなことありませんわ。とてもうれしいわ。きっと。」と、メグがいいました。
「ねえ。わが友、祝杯をあげましょうよ。あそびは永久に! あくせくしっこなし!」と、ジョウはレモン水がいきわたったとき、そのコップを高くささげてさけびました。
 みんなはたのしそうに飲みほしました。そのときから、ぶらぶらあそびがはじまりました。あくる朝も、メグは十時までねどこのなか。ジョウは花瓶に花もささず、ベスはそうじをしないし、エミイの本はちらかったまま、ただ「おかあさんの領分」だけが、きちんと片づいているだけでした。この部屋では、メグは、休息も読書もできず、あくびが出るばかり、給料で夏のどんなドレスが買えるかなどと考えるのでした。ジョウは、午前のうちはローリイと川へボートこぎにいき、今後は林檎の木の上で「広い世界」という物語を涙を流して読みました。ベスは、戸だなをかきまわし、そのままにして、ピアノへ気をうつしていきました。エミイは、じぶんの花園のスケッチをはじめました。それから散歩にいきましたが、夕方になってぬれねずみになって帰って来ました。
 お茶のとき、四人はその日のことを、いろいろ話し合いましたが、たのしかったけれど、いつになくその日は、永く感じられたということに、みんなの意見は一致しました。そして、つぎの日も、また、つぎの日も、休んであそびました。ところが、いよいよ一日が永く感じられ、なんとなくおちつかない気分になって来ました。すると、悪魔は四人の心をねらい、いろんなわるいことを見つけて、あばれはじめたのであります。
 たとえば、メグは布地を小さくきりすぎて、一枚の服をだいなしにしてしまいました。ジョウは、本を読みすぎて目がぼやけ、いらいらした気分となって、やさしいローリイと、けんかして[#「けんかして」は底本では「けんかしてして」]しまいました。ベスは、あそんでばかりいないで、いつもの習慣で家事のお手つだいをするので、わりにいいほうでしたが、それでも、家のなかの気分に動かされて、いらいらしてしまい、人形をしかりとばしたりしました。エミイは、ひとりであそぶことが、むずかしいことがわかりました。一日中、絵をかいてもいられませんし、人形あそびはきらいでしたし、すっかり心のつかれをおぼえました。
 金曜日の晩になると、だれもあそびにあきたとはいいませんでしたが、もう一日で一週間がおわるので、うれしく思いました。おかあさんのほうでも、ほうれごらんと、ちゃんと見てとって、この教訓をいっそう印象づけたいと思って、わざとハンナに土曜日一日、休みをあたえました。
 土曜日の朝、みんなが起きてみると、台所には火の気はなく、食堂には朝御飯はなし、おかあさんもハンナもいません。
「あら、どうしたっていうんでしょう!」
 ジョウがさけんだとき、メグはもう二階へかけあがっていき、まもなく、ほっとして、けれど、すこしはおかしそうな顔をしておりて来ました。
「おかあさんは、御病気ではないけど、おつかれでおやすみよ。今日一日は、みんなで好きなようになさいって。」
「そう。いいじゃないの、おもしろいわ、あたしなにかしたくて、うずうずしてたんですもの。」と、ジョウがいいました。
 まったく、今、四人はすこし仕事がしたくなりました。メグがコック長となってさっそく食事の仕度がはじまり、みんなおもしろがってやりました。おかあさんは、じぶんのことはかまわないでといいましたが、おかあさんの食事は用意され、ジョウが二階へはこびました。わかしすぎた紅茶はにがく、オムレツはこげ、ビスケットは重曹でかたまって、ぶつぶつしていましたが、おかあさんは、感謝して受け、ジョウが去ってしまうと、おかしくてたまらなくて、ひとりで笑ってしまいました。
「かわいそうに、みんなこまっているでしょう。でも、そうつらいとも思っていないだろうし、後のためにもなることだから。」と、つぶやいて、おかあさんはじぶんで用意しておいたもっとおいしい食物をとり出し、運ばれた食事はわからないようにしまつして、食べたことにしておいたので、みんなはうれしがりました。これはおかあさんらしい、ちょっとしたうそでした。
 ところで、階下ではいろんな不平が起りました。食事の失敗に、コック長はひどくくやしがりました。ジョウは、
「いいわ。お昼の食事は、あたしが女中になって用意するわ。ねえさんはおくさんになって、お客さまの相手をしてちょうだい。」と、いって、ローリイをよぶことを提案しました。
 これは、賛成されました。そこで、ジョウは、さっそくローリイに招待状を書いて郵便局へ出しておきました。けれど、ジョウのうで前は、すこしあぶないようでした。メグが心配すると、
「だいじょうぶ、コンビーフも、じゃがいももある。つけ合せに、アスパラガスとえびを買ってくるわ。それから、ちさでサラダをつくりましょう。つくりかたの本を見ればいいわ。デザートは、白ジェリイといちご、もっとぜいたくすれば、コーヒーも出すのよ。」
「ジョウ、あなたは。しょうがパンとキャンディだけしかつくれないじゃないの。あたしこの御馳走には関係しないわよ。だって、あなたが勝手にローリイをよんだんだから。」
「おねえさんは、ローリイを、そらさないようにして下さればいいわ。でもこまったら、なんでも教えて下さるでしょうねえ?」と、ジョウはむっとしました。
「ええ、でもあたしいろんなこと知らないわ。おかあさんに、尋ねてからにするほうがいいわ。」
 ジョウは、じぶんのうでをうたがうようなことをいわれたので、ぷりぷり怒って部屋を出て、おかあさんへ相談にいきました。
「好きなようになさい。おかあさんのじゃまをしないでね。あたしは食事は外でします。家のことなどかまっていられません。今日はお休みです。本を読んだり、手紙を書いたり、お友だちをたずねたりして過します。」
 いつもいそがしいおかあさんが、今日は朝からゆれイスにかけて本を読んでいるふしぎなありさまと、けんもほろろな、その言葉に、ジョウは、
「へんだわ。おかしいわ。」と、ひとり言をいいながら階段をおりて来ると、ベスの泣き声が聞えました。いってみると、鳥かごのなかでカナリヤが死んでいました。
「みんな、あたしのせいよ。えさも水もちっともないわ。」と、ベスはこわばって、つめたくなったカナリヤを手の上にのせて、かいほうしましたが、もうだめでした。
「お墓へいれてやるわ。もうあたし小鳥なんかかわない。」
 ベスは、すっかり気を落していました。
「おとむらいは、お昼からにして、みんなでおまいりしましょう。さ、もう泣かないで、箱のなかへねかせておやり。」と、ジョウはいって、台所へはいりましたが、台所は手のつけられないほど混乱しストーヴは火が消えていました。ジョウは火を起し、お湯がわくまでに市場に買い出しにいくことにしました。えびとアスパラガスと、いちごを二箱買って来ると、火は起きていました。ジョウはまず台所を片づけましたが、ハンナがパンをやくように鍋にしかけたままにしてあったのを、メグがこねなおして、ストーブにのせたまま、客までサリー・[#「・」は底本では欠落]ガーデナアのお相手をしていました。
 ジョウ[#「ジョウ」は底本では「メグ」]は、そこへとびこんでいって、
「ね、パンがお鍋のなかでころがるようになったら、ふくらんだのじゃない?」
 サリイは笑い出しましたが、メグはただうなずいただけでした。ジョウは、すぐにひきかえし、すっぱいパンをそのまま、かまにいれました。
 そのとき、おかあさんは、どんなぐあいにやっているか、あちこちのぞきまわり、あわれなカナリヤを箱にいれて、着せてやる服をぬっているベスに、なぐさめの言葉をかけると、外へ出かけてしまいました。娘たちは、なんだかもの足りない気がしました。
 そこへ、クロッカーがやって来ました。この人は、やせて黄色い顔をしたオールドミスで、いろいろとあたりをながめまわし、お昼の食事をごちそうになりたいといいました。娘たちは、この人がきらいでしたが、年よりで貧乏で友だちもないから、親切にしてあげるようにいわれていました。その人は、いろいろなことを尋ねたり、やたらに批評したり、知人のうわさ話をしたりしました。
 その朝のジョウの苦しい骨折は、たいへんなものでありました。ジョウの骨折は、すべて失敗におわり、アスパラガスは、一時間もにてまだかたく、パンは黒くこげ、サラダのかけじるは食べられるしろものでは[#「しろものでは」
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