仕事はやすやすはじめられませんでした。
「いつまでも、クリスマスかお正月だといい。そうしたらおもしろいでしょうね。」と、ジョウは、あくびまじりに答えました。
「そしたら、今よりか半分もおもしろかないわ。だけど、お夜食や花束をいただいたり、会へいったり、馬車で帰ったり、読書したり、休養したりして、こつこつはたらかない[#「はたらかない」は底本では「はたちかない」]ですむような人、うらやましいわ。」と、メグがいいました。
「でも、そんなことできないわ。だから、ぐちをこぼさないで、おかあさんみたいに、ほがらかに[#「みたいに、ほがらかに」は底本では「みたいにほ、がらかに」]歩いていきましょう。」
 けれど、メグの心は晴れません。髪をきれいにする元気すらありません。
「ああ、いやだ。せっせとはたらいて、年をとって、きたない気むずかし屋になるんだわ。貧乏でおもしろく暮せないばっかりに。」
 こういってメグは、ふくれた顔をして階下へいき朝の食事のときもふきげんでした。みんなも気分がひきたちませんでした。ベスは頭痛がするので、ソファの上に横になり、親ねこと三びきの子ねこを相手に気をまぎらそうとしました。エミイは勉強がはかどらないのに[#「はかどらないのに」は底本では「はがどらないのに」]、ゴム靴が見つからないのでぷりぷりしました。ジョウは口笛をふいて、さわぎをひきおこしかねないようすでした。おかあさんは、いそぎの手紙を書くのにいそがしく、ハンナも前の晩おそかったので、ふきげんでした。
「こんないじわるの家ってありやしない!」
 ジョウは、インキのつぼをひっくり返し、靴のひもを二本とも切ったので、とうとうかんしゃくを起して、じぶんの帽子の上にどさりとすわり、大声でそうさけびました。
「なかで、あなたが一ばんいじわるよ。」と、エミイがやり返し、石盤の上にこぼした涙で、まちがいだらけの計算を消してしまいました。[#「。」は底本では「。」」]
「ベス、こんなうるさいねこ。あなぐらにほうりこんでおかないと。水でおぼれさせれしまうわよ。」と、メグは、じぶんのせなかにかじりついたねこを、はなそうとしながらいいました。
 ジョウは笑う。メグはしかる。ベスはあやまる。エミイは、十二の九倍がいくつになるか、わからなくて泣きました。
「さあ、しずかにしておくれ、今朝早く出さなければならないのに、がやがやうるさくして、書けやしません。」と、おかあさんは手紙の書きそこないを消しながらいいました。
 それで、ちょっと静まりました。ハンナが来て、熱いパイを二つおいて、出ていきました。姉妹たちのいく道は遠く寒く、三時前までに帰れないので、これはおべんとうでもあり、また、手をあたためることもできました。それでこのパイのこと「マフ」ともよんでいました。
「では、かあさんいってまいります。今朝はあたしたちだだっ子でした。でも、天使になって帰って来ます。」
 ジョウは、そういって、メグといっしょに出かけました。町角でふりかえると、いつも窓でにっこり笑うおかあさんの顔があり、それが励ましになるのでした。二人は今朝もふりかえり、おかあさんの笑顔を見ると、元気になろうとつとめ、しばらく歩いてから、べつべつの道をいきました。メグは保姆の仕事、ジョウはマーチおばさんのところへはたらきにいくのでした。
 おとうさんが、不幸な友人を救おうとして財産を失くしたとき、二人はすこしでも家のためになりたくてはたらき、それからずっとはたらいているのです。メグの給料はわずかで、しかもまい日キング家で、年上の姉妹たちが、ぜいたくをしているのを見るので、だれよりも貧乏をつらがっていました。ジョウはびっこのマーチおばさんの世話をしますが、気みじかのおばさんと、よく気が合いました。それに、死んだおじさんの文庫がすばらしく、おばさんが昼寝をしたり、来客でいそがしいときさっそく文庫にはいりこんで、詩、歴史、旅行記だのに読みふけりました。それはいいとしても、思うさまかけまわったり、馬にのったりできないのは、なやみの種でした。
 ベスは、はにかみ屋で、学校へもいけないほどでした。それでおとうさんが勉強を見ていましたが出征しなすってからはおかあさん、かあさんが軍人後援会へいくようになってからは、ひとりで勉強します。性質は勤勉で家事が好きで、ハンナを助けて家をきれいにしますが、まだ子供で、人形と遊ぶことが、なによりのたのしみでした。けれど、このベスにも、苦になることがありました。それは、音楽好きなのに、よいピアノもないし、音譜もないことで、音楽の勉強が思うようにできないので、涙をながすことがときどきありました。
 エミイのつらいことには、鼻が美しくないことで、エミイにいわせると、あかんぼのとき、ジョウが手をすべらして炭取のな
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