かへ落したためだそうです。エミイは絵がじょうずで、花を写生したり、空想的な絵もかきます。それに十あまりの曲もひくし、フランス語も読めるし、性質は素直でおとなしいので、みんなからかわいがられました。
 さて、晩に、みんながいっしょにお裁縫をはじめたとき、メグがいいました。
「今日はほんとにくさくさした日だったわ。なにかおもしろい話でもない?」
 すると、ジョウがすぐにいいました。
「あたし、今日はへんなことあったのよ。マーチおばさんがいねむりをはじめたので、おばさんが読め読めという、つまらない、ベルシャムを読みかかったら、こっちもねむくなり、大きなあくびをしたの。そうしたら、おばさんは、罪ということについて、ながながとお説教をやりだし、お説教がすむと、よく考えなさいといって、またいねむりよ。そこでわたしは、「村牧師」を出して読みだしたのよ。そしたら、水のなかへころげこむところで、つい大声をあげて笑ったの。すると、おばさんが目をさまして、それを読んで聞かせなさいとおっしゃるの。私は読んであげた。おもしろかったのね。だから、お昼すぎに、あたしが手袋をとりにいったら。おばさんは、じぶんで「村牧師」を熱心に読んでるのよ。ね。やっぱりベルシャムなんかよりおもしろいのよ。おばさんみたいな金持だって貧乏人とおなじような心配があるんだわ。だから、「村牧師」にひきつけられるのだわ。」
 すると、メグがいいました。
「それで、あたしも話すこと思いついたわ。今日キングさんのところへいったら、なんだかへんなの。[#「。」は底本では欠落]それで、あたし一人の子に尋ねたら、一ばん上の兄さんがなにか大へんなことをして、おとうさんから家をおいだされたんですって。泣き声、どなり声がして大へんだったわ。家のはじになるような、らんぼうな男の兄弟がいなくてよかったわねえ。」
 すると、エミイがいいました。
「今日、スージーさんは、先生の漫画を書いたので、三十分も教壇にたたされたの。あたしスージーさんが、きれいな、めのうの指輪をはめて学校へ来たので、うらやましく思っていたけれど、あんなはずかしい目にあうようじゃ、いい指輪はめたってしあわせじゃないわ。」
 つぎに、ベスが話しました。
「今朝あたしハンナにかわって、魚屋へかきを買いにいったの。すると、貧乏そうな女の人が来て、仕事がなくて子供に食べさせるものがないから、みがきものでもさせて、お魚をすこし下さいと頼んだの。すると、魚屋さんいそがしいもので、つっけんどんに、だめよといったの。すると、そのときローレンスさんがしおれて帰っていく女に、大きな魚をステッキでひっかけてあげたの。女は、びっくりして、よろこんで、なんどもお礼をいって、ローレンスさんに天国へいけるようにって祈ったの。」
 みんなはベスの話を笑いましたが、もちろん心をうたれました。そして、おかあさんにお話をねだりました。
「そうね、おかあさんは、会で青いネルを裁っていたら、おとうさんのことが、みょうに心配になって、もしものことがあったら、どんなに頼りなく、さびしいだろうと思っていました。すると、なにか註文をもっておじいさんが、心配そうな、疲れたようすでやって来ました。身の上を尋ねてみたら四人息子が戦争に出ていて、二人は戦死をし、一人はとりこになり、一人はワシントン病院にいるんですって。そして、これからそこへいくんですって。けれど、すこしもぐちをこぼさないで、よろこんでお国のために、子供たちを出したというのです。おかあさんは、たった一人おとうさんを出してつらがっています。はずかしくなりました。そればかりか、おじいさんは、たった一人ぼっちですがおかあさんには四人も娘がいて、なぐさめてくれます。ほんとに、おかあさんは、じぶんの恵みふかい幸福がありがたかったので、おじいさんに、つつみとお金をあげ、教えていただいた教訓に、心からのお礼をいいました。」
 みんなは、この話にも心をうたれました。ジョウは、もう一つ、今のようないい話をと望みました。おかあさんは、にっこり笑って、すぐに話しはじめました。
「むかし、食べたり着たり、なに不足のない四人の娘がありました。たのしみも、よろこびもありあまり、親切なお友達や両親があって、愛されていたのに、娘たちは満足しませんでした。(ここで聞き手たちは、こっそり見かわして、お裁縫に精を出しました)娘たちはよくなろうと決心するのですが、やりとげることができないで、これがあったらとか、あれができたらとかと、考えました。それで、あるおばあさんに、幸福にしてくれるまじないがあれば教えて下さいといいましたら、あなたがたが満足に思うとき、恵みということを考えて感謝なさいといいました。(ここでジョウは、なにかいいたそうでしたが、話がおわらないのでいうのを
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