いって、窓をしめましたが、すぐに、また、
「もしもし、二人ともきれいなハンカチもっていますか?」と、念をおしました。
「ええ、まっ白よ、ねえさんはコロン水もかけました。」と、ジョウは答えました。
 二人は、カーデナア夫人の家にいくと、その化粧室で、かなり長いあいだ鏡をのぞいてから、すこしびくびくしながら、階下におりていきました。二人は、めったに舞踏会などに招待されたことがないので、今晩の会は略式でも、二人にとっては大きな事件でした。
 りっぱな老夫人カーデイナア夫人は、にこやかに二人を迎えてくれ、六人の娘のなかの長女に二人を渡しました。メグはサーリーさんを知っていたので、すぐに親しく話し出しましたが、女の子らしいおしゃべりに興味をもたないジョウは、服に焼けこがしがあるので、用心ぶかく壁をせにして立っていました。部屋のむこうで、快活な五六人の男の子が、スケートの話をしていたので、ジョウはそこへいってもいいかと、メグに合図をしましたが、メグの眉がおどろくほどあがったので、動くことができませんでした。しかたなしに、ジョウは、ただ一人とりのこされ、ダンスがはじまるまで、人々をながめているばかりでした。
 ダンスがはじまると、メグはすぐに相手ができて、にこにこして踊りましたが、きゅうくつな靴の痛さをがまんしていることは、だれにも気がつかれませんでした。ジョウは、髪の毛の赤い青年がやってくるのを見て、ダンスを申込まれては大へんだと思い、いそいでカーテンのかげに入ると、そこには、はにかみ屋さんの「ローレンスのぼっちゃん」がいました。ジョウは、さっそく、クリスマスのプレゼントのお礼をいいますと、
「あれは、おじいさんのプレゼントです。」
「でも、おじいさんにおっしゃったのは、あなたでしょう?」
 ぼっちゃんは笑っていました。それから、いろいろ話しているうちに、ジョウは、このぼっちゃんが、ローリイという名で、長いあいだ、外国にいたことを知りました。
「まあ、外国へ、あたしは旅行の話を聞くのは大好き!」
 ローリイは、どう話したらいいかわからないようでしたが、ジョウが熱心にいろいろ質問したのでエヴェの学校のことや、この前の冬、パリイにいた話をしました。ジョウは、めずらしい外国の話にたまらなくなって、
「ああ、いってみたい!」と、いいました。
 それから、話はフランス語のことになり、ジョウが、じぶんは読めてもしゃべれないだけれど、ちょっと話してみてほしいといいますと、ローリイは、フランス語でいいました。
「あのかわいいスリッパはいた人はだれですか?」
 ジョウは、わかったので、すぐに答えました。
「あれは姉のマーガレットです。あなたは、わたしのねえさんをかわいいと思いますか?」
「ええ、おねえさんは、なんとなくドイツの少女を思わせます。いきいきして、それでしとやかで、りっぱな淑女みたいに踊りますね。」
 ジョウは、姉をほめられてうれしく、ぜひメグに話してやろうと思いました。ローリイは、もうすっかりはにかみもせず、心を開いて話し、ジョウも、今は服のことなど忘れて、快活ないつものジョウになり、ローリイが好きになりました。それで、ローリイのことを、姉妹に話してやるために、顔かたちや身体つきなどをよく憶えておこうと思っていくども見なおしました。けれど、年はいくつでしょう? ジョウは、おいくつといいそうにしましたが、やっとこらえて、遠まわしに尋ねることにしました。
「もうじき大学へいらっしゃるんでしょう?」
「まだ二三年はだめです。十七にならなくてはいけません。」
「では、まだ十五ですか?」
「来月、十六です。」
「あたしは大学へいきたいけれど、あなたはいきたそうではありませんのね。」
「ぼくはいやです。ぼくはイタリイに住んでじぶんの好きなように暮したい。」
 ジョウは、ローリイのいう、その好きなように暮したいということを、くわしく聞きたいと思いましたが、眉をひそめてふきげんに見えたので、気をかえさせようと思って、足拍子をとりながら、
「ああ、いいポルカね。あなたなぜいってダンスなさらないの?」と、尋ねました。
「あなたもいけば。」
「あたしはだめ。あたし姉さんに踊らないといったの、なぜって、いうと……」
 ジョウが、いおうか、笑ってすまそうかとしていると、ローリイは、しきりにわけを尋ねます。だれにもいわないならばと念をおして、
「服にやけこがしがあるんです。あたしわるいくせがあって、よくやけこがしするの。」
 ローリイは笑いませんでした。
「そんなこと平気ですよ。それじゃ、あっちの細長い広間で踊りましょう。だれにも見られないから。」
 ジョウは感謝して、よろこんでついていき、だれもいない、その広間で、ポルカを踊りました。ローリイは、ダンスがじょうずで、ドイ
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