、エミイ。すると、ベスは、
「サンタ・クロースよ、きっと。」
 メグは、白いひげをはやし、白い眉毛をつけたまま、
「おかあさまだわ。」と、いいました。ジョウは、
「マーチおばさまが、すてきな思いつきで、とどけて下さったのよ。」と、いいました。
 おかあさんは、にっこり笑いながら、
「みんなちがいます。ローレンスさまが、下すったのです。」
「ローレンスの、ぼっちゃんのおじいさまですって? どうしてでしょう? わたしたちを、ごぞんじないのに。」と、メグが、おどろいていいました。
「ハンナが、ローレンスさんの家の女中さんに、今朝のことを話したのです。ローレンスさんは、それを感心なさって、ていねいな手紙で、今日のお祝いにプレゼントをしたいといって、およこしになったのです。」
「ぼっちゃんが、思いついたんだわ。いいぼっちゃんだわ。お友だちになりたいけど。」と、ジョウがいいますと、それをきっかけに、ローレンス家のうわさに花がさきました。
 ローレンスさんは、お金持だが、ちょっとかわっていて、あまりつきあいもしませんが、ぼっちゃんは、いい子で遊びにきたいらしいけど、はにかみ屋だもので、遊びに来れないらしいというようなことが話されました。すると、おかあさんは、
「ぼっちゃんは、りっぱな紳士のようです。いい折があったらお友だちになるといいと思います。この花は、じぶんで持っていらっしゃいました。二階のさわぎを耳にして、さびしそうに帰られたのです。」
「では、いつか、ぼっちゃんが見てもいいお芝居をしましょう。」と、ジョウがいいました。
「あたし花束なんか、もらったことないわ。きれいねえ。」と、メグは花束に見入っていました。そのとき、おかあさんが、
「花束はかわいいけれど、ベスさんのばらはなおかわいい。」と、いって、胸にさしたベスのしぼみかけたばらをかぎながらいいますと、ベスはおかあさんに身をすりよせて、
「あたし花束をおとうさんのところへお送りしたかったの、おとうさんは、あたしたちみたいに、たのしいクリスマスをしてはいらっしゃらないでしょう。」と、小さい声でいいました。

          第三 ローレンスのぼっちゃん

「ジョウ、どこ!」と、メグが屋根部屋の梯子の下からよびました。
「ここよ。」
 かけあがっていくと、ジョウは日なたぼっこをして林檎をかじりながら本を読んでいました。
「とても、いいニュース。明日の晩、来てほしいという、ガーデイナアのおくさんの正式招待状よ。」と、メグはその手紙を嬉しそうに読みました。
「大晦日の晩に、小宅で舞踏会を催します。ミス・マーチ、ミス・ジョセフィン、お二人とも御光栄下されたく存じます。ガーデイナア夫人――おかあさんはいってもいいって。だけど、あたしなにを着ていこうかしら?」
「そんなこと、きいたってだめよ。ポプリンの服しかないんだから、あれを着ていくほかないの知ってるくせに。」と、ジョウは、林檎を口いっぱいほおばっていいました。
 さあ、それから、メグは、絹の服があればいいとか、手袋のいいのがないとか、くよくよと、こだわってばかりいましたが、ジョウは服に焼けこがしがあるけど、平気が着ていくし、手袋なしですますつもりでした。ジョウにとっては、そんなことたいして心わずらすことではありませんでした。
「あたしのことは心配しないでいいわ。できるだけ、おすましして、しくじらないように気をつけるわ。それでは返事を出しなさいよ。」
 そこで、メグは、服の用意にとりかかるために出ていき、ジョウは、なおしばらく林檎を[#「林檎を」は底本では「林檎をを」]かじって本を読んでいきました。
 大晦日の晩は、客間はからっぽでした。二人の妹は、着付役にまわり、二人の姉は、夜会のお仕度という、きわめて重要なお仕事に夢中でした。化粧はかんたんでも、二階へかけあがったり、かけおりたり、笑ったりしゃべったり大さわぎで、メグが額の上にすこし捲髪がほしかったので、ジョウがこてで焼いたら、つよい髪の焼けるにおいが家中にただよいました。その失敗に、メグは泣きだすしジョウは心苦しそうでした。このほか、小さい失敗は、かず知れず、それでもやっと二人の仕度はできあがりました。メグは、銀褐色の服、空色ビロウドの、リボンに、レースのふち飾り、そして、真珠のピンをさしました。ジョウは、海老茶色の服に、かたい、男のするようなカラア、それに白菊を飾りにしただけでしたが、ともかく、二人ともすっきりとしていました。二人とも、きれいな手袋を片方ずつはめ、よごれた方をもちました。苦心のお仕度でありました。
 姉妹が、すまして歩道へ出ると、おかあさんは、
「いってらっしゃい、お夜食はたくさん食べちゃいけませんよ。ハンナを十一時に、お迎えにあげるから、帰っていらっしゃい。」と、
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