乞わずにはいって来ましたが、たしかにメグとジョンはおどろき、メグはとびあがり、ジョンは書斎へ逃げこもうとしました。
「おや、まあ、これはいったい、なにごとですかい?」と、老婦人は杖で床をたたき、二人がそこにいたのをあやしみました。
「あの、おとうさんのお友だちですの。」
「その男が、お前さんの顔をなぜあかくさせたかね? なにかまずいことでもあったね。」
「ただお話ししただけです。ブルックさんは、こうもりがさをとりにいらしたのです。」
「ほう、ブルック、あの子の家庭教師がね? ああ、わかりました。ジョウがおとうさんのことづけをいいに来たとき、まちがえて口をすべらしたのを聞いた。お前さんは、承知しはしないだろうね?」
「しっ! 聞えますわ、おかあさんをよんでまいりましょうか?」
「まだいい。お前にいうことがあります。お前がその男と結婚する気なら、わたしはびた一文もあげないからね、よくおぼえておき、そして、りこうにおなりよ。」
 老婦人は、どんなにやさしい人にも反抗心を起させる人で、今もメグは、強制的にそういわれると愛情と片意地で、ジョンを好きになろうと思い、いつになく強気で、
「あたしは、好きな人と結婚します、お金はあなたの好きな方にあげて下さいませ。」
「なんですって! そんな口のききかたをして、今に貧乏人との恋にあきて後悔しますよ。」
「お金持と、愛のない結婚するよりましですわ。」と、メグはゆずっていません。
 老婦人は、メグがこんなことをいい出したのでおどろき、今度はやわらかに説き伏せるつもりで、
「わたしは親切からいうんです。お前さんはりっぱな結婚をして家の者を助けなければならないのです。」
「いいえ。両親ともそんなこと考えません。両親ともジョンが好きです。貧乏ですけれど。」
「お前さんの両親は、世間知らずのねんねだからね。そのブルックとやらは、貧乏で、金持の親類もないそうだね。」
「でも、親切な友だちがたくさんいますわ。」
「友だちがなんの力になるものか[#「ものか」は底本では「ものが」]、それに、その男には職業もないんでしょう?」
「まだ、ありません。ローレンスさまがお世話して下さいます。」
「あんな変物が頼みになるものかね。とにかくお前はもうすこしりこうだと思っていたが。」
「ブルックさんは、りっぱなかたです。かしこいし、才能もありますし、勇気もおありになります。わたしのこと思って下さるのを、わたしは誇りにしています。」
「あの男は、お前に金持の親類があるから、それでお前を好きになったんだよ。」
「まあ、どうしてそんなことおっしゃるんですか? わたしは、どうしても、あのかたと結婚します。」
 メグは、そこまでいって、もしかジョンに聞かれたらと思って、はっとして言葉をきりましたが、マーチおばさんはたいそう怒って、
「よろしい、強情だね、あたしは、もうお前のおとうさんにあう気力もない。結婚したからって、あたしからなにかもらうなんて考えたってだめです。永久におさらばだよ。」と、おそろしい顔つきで帰っていきました。のこったメグが、ぼんやりつっ立っていると、ジョンが来て、
「メグ、ぼくのこと弁護して下すってありがとう。それから、おばさんにはあなたがわずかにしろぼくのこと愛して下さることを証明して下さったお礼をいいますよ。」
「おばさんが、あなたのわる口をいい出すまでは、どんなにあなたを思っていたか、わたしにもわかりませんでしたわ。」
「では、ぼく帰らないで、ここにいて幸福になれますね、え?」と、ジョンがいいましたが、ここでもつんとすまして立ち去るわけでしたが、メグは、ええとやさしくささやいて、ジョンの胸に顔をうずめ、ジョウの手前、永久に頭のあがらぬことになってしまいました。
 十五分ほどして、ジョウが二階からおりて来て、予期しなかった変化におどろき、まるで息の根がとまるほどでした。しかも、ジョンは、ぼくたちを祝って下さいというではありませんか。ジョウは悲痛なさけびとともにとび出し二階へかけあがり、
「ああ、たれか早く階下へいって下さい。ジョンがおかしなまねをして、おねえさんがよろこんでいるわよ!」
 おとうさんと、おかあさんは、いそいで階下へいきました。ジョウは、ベスとエミイにおそろしいニュースを聞かせながら、ののしりわめきましたが、二人ともむしろそれをうれしいニュースと考えていたので、ジョウはじぶんの屋根部屋へいき、そのなやみをねずみたちにうち明けました。
 その日の午後、客間でなにがあったか、だれも知りませんでした。けれど、いろいろの話がかわされ、おとなしいジョンが、じぶんの望みや計画を非常な熱心さで話したことは、たしかでありました。
 夕飯のベルが鳴り、みんなが食卓についたとき、ジョンとメグは、この上もなくたのしそうに見
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